イビキは、イビキをかく本人だけではなく、一緒に寝ている人にも迷惑をかけることがあります。旅をするにもイビキを聞かれるのがイヤで出かけられないという人もいます。
自分では、イビキをかいていないと思っていても、病院で検査してみたら結構イビキをかいていてビックリしたという経験を持っている人もいるのではないでしょうか。
私たちは、寝ているときは”スヤスヤ”と表現されるように、ほとんど無音状態で息をしながら寝るのが本来の姿です。イビキをかいていたら、寝ているときにどんな敵に襲われるかわかりませんから。最近は、スマホアプリでイビキをかいているかどうか判断できますから、一度試してみるものいいですね。
今回は、自分で出来る大人のイビキや睡眠時無呼吸症候群の改善の方法をお伝えします。
目次
睡眠時無呼吸症候群やイビキの治療法について
大人の睡眠時無呼吸症候群の治療は原因にもよりますが、ここでは一般的にイメージされていて患者さんも最も多い閉塞性睡眠時無呼吸症候群について書くと
- CPAP(経鼻持続的陽圧療法)
- 口腔内装置
- 手術
- 減量
が挙げられます。中でも人工呼吸器を使うCPAPは有名ですね。ただ扱いが難しかったり、旅行や出張などの持ち運びに手間がかかったりして続けることが困難な人も時々います。
さらにCPAPは、重症の睡眠時無呼吸症候群でないと保険適応にならないため、残念ながら軽度や中等度の人には適応になりません。
それらの人には、歯科医院で作成してもらう口腔内装置(いわゆるマウスピースです)があります。これは医師の紹介状があれば保険適応となります。
そして、最後の減量。これが難しい!分かっちゃいるけど難しい。
イビキをかく人、無呼吸の人というと、首回りだけじゃなくお腹周りにもお肉のついた人をイメージすると思います。痩せた人でも睡眠時無呼吸症候群にはなるのですが、やはり太っている人に多い。一概に「痩せましょう」と指導してもなかなか痩せることが出来ません。
この睡眠時無呼吸症候群の合併症としては、
- メタボリックシンドローム
- 心血管疾患
- 不整脈
- 脳血管障害
- 認知機能低下、日中の眠気、記憶障害など
- 逆流性食道炎
- 性機能不全
などがあります。たかがイビキ、たかが無呼吸と侮るなかれ!
あなたの命に直結する病気にかかることもあります。
満足に睡眠が取れませんから、日中にうとうとしてしまう、日中に動くことが少なくなる、そしてまた太ってしまうという悪循環が繰り返されることになります。
睡眠時無呼吸症候群の治療法はこれだけか?
睡眠時無呼吸症候群やそれらによって引き起こされた高血圧などの病気に対して、できるだけクスリを使いたくない、機械に頼りたくないという人も多いと思います。病院に通い続けるのも大変な労力になりますから。
さて、上に挙げた睡眠時無呼吸症候群の治療法(CPAP、口腔内装置、手術、減量)以外に治療法はないのかといぶかしがる人もいると思います。
それ以外にも睡眠時無呼吸症候群を改善する方法があれば、減量以外の自分でなんとかできる方法があればいいな、あるとうれしいなと思いますよね。
実は、それがあるんです!
中等度の睡眠時無呼吸症候群には顔のエクササイズが効く
ここで、「痩せろといわれているけど痩せられない」「機械や手術は何だか怖い」と思っている私たちを大きく勇気づけてくれる論文を紹介します。
Effects of Oropharyngeal Exercises on Patients with Moderate Obstructive Sleep Apnea Syndrome
Am J Respir Crit Care Med Vol 179. pp 962–966, 2009
「口腔咽頭のエクササイズが中等度の睡眠時無呼吸症候群患者におよぼす影響」と題するブラジルからの報告です。
これは男女31名の被験者に対して口や舌のエクササイズを3ヶ月間行ったものです。
15名が対照群(何もしない)、16名がエクササイズ群にの二つに分けられました。そして、二つのグループ間には体重やBMI、睡眠時無呼吸状態などの差はありませんでした。
三ヶ月間エクササイズをした群は・・・
このように統計学的な有意差を持って無呼吸指数(AHI)が減ったのです。左側が何もしなかった対照群、右がエクササイズ群です。
エクササイズ群の方がグラフが右肩下がりになっていることが分かりますね。このグラフの縦軸が無呼吸指数で、上に行けば行くほど重症となります。
具体的な数字で書くと、
最初 | 3ヶ月後 | |
対照群 | 22.4±5.4 | 25.9±8.5 |
エクササイズ群 | 22.4±4.8 | 13.7±8.5 |
となったのです。
ここで睡眠時無呼吸症候群の重症度ですが、一時間当たりの低呼吸、無呼吸の回数(AHIといいます)が
- 正常 0~5< (単位は回数/時間)
- 軽症 5~15<
- 中等症 15~30<
- 重症 30~
となります。研究の対象となったのはAHIが22前後の中等度の人たちなわけです。
それがたった3ヶ月エクササイズをおこなっただけで、なんとなんと平均のAHIが13.7±8.5と軽症の範囲にまで改善しているではありませんか!!
3ヶ月間口や舌のエクササイズをするだけでも、イビキが改善するんですね。
この研究で改善したその他の項目は
その他にも3ヶ月間の口腔周辺のエクササイズで改善した項目があります。それらは
- イビキの回数、ひどさが現象
- 睡眠の質が向上
- 日中の眠気の改善
- 首の周囲径の減少
です。これはすごいですね!3ヶ月でこの変化、しかもエクササイズですからなんといっても無料!!
今回の研究では、残念ながらBMIとかウエストサイズには変化がなかったようです。
3ヶ月で睡眠時無呼吸症候群を改善させたエクササイズとは
では、どんなエクササイズをしたのだろうかと気になりますね。
論文中に#1咽頭部や軟部組織、#2舌、#3顔面と三つに分かれて記載されていますが、これが実際にやろうすると時間がかかってしまいます。
#1 咽頭部や軟部組織
まず軟部組織は、発音・発声が上げられます。
母音を断続的そして連続的にに発声する、あ・あ・あ・あ・あ、い・い・い・い・い、から「あいうえおあお」などのアナウンサーの発声練習のようなものですね。これを3分間。
#2舌
次に舌です。舌は、イビキ改善に大きな役割を果たします。
イビキは、舌の根元(舌根)が仰向けになったときに気道をふさぐために起こります。ですから、横向き寝が良いとされるのです。
ただし、横向き寝はあくまでも対症療法です。舌を鍛えること大切です。
舌のエクササイズは、舌ブラシで磨く、舌を上あごに押しつけるなどがあります。
以前紹介したことのある、あいうべ体操の変形の方法とそっくりなものが採用されています。
#3顔面
そして顔面の筋肉。顔面の筋肉は、表情筋や咀嚼筋がありますが、この論文でもぎゅーーっと口を結んで口輪筋を鍛えることになっています。
後は、口角を上げたり、ほっぺたを膨らましたり。
これもきちんと行うと5分程度かかります。
じゃああいうべ体操で良いんじゃない?と思われた方、そうです。
あいうべ体操もこれらの動きが入っています。
あいうべ体操は、声を出さなくても良いとしていますが、より効果的に行うには、発声しながらがいいです(べ~を除く)。
イビキ改善のためにあいうべ体操を3ヶ月間
これらを覚えるのが面倒な人には、あいうべ体操をお勧めします。あいうべ体操は、舌位置が上あごにつくようになるための体操で、舌が上あごにつけば口がぽかんと開かなくなり、鼻呼吸になっていきます。
舌位置改善にはまず3週間、そして3ヶ月やるとイビキなどの改善することが期待されます。
その時は、一日50~100回程度行った方が良いですね。
表情筋を動かすには、変顔のあいうべもお勧めです。
これまでの臨床データからもあいうべ体操を継続しても、無呼吸指数の改善が認められました。
イビキをさらに改善するためには口テープを
あいうべ体操もい良いけれど、すぐに効果が出ないんじゃやる気が続かないという人もいらっしゃるでしょうし、口角ヘルペスや顎関節症で口を大きく開けられないという人もいるでしょう。
すぐに効果を実感するためには、今夜から口閉じテープ(マウステープ)です。
いまではいろんなメーカーから発売されていますが、私のお勧めはマウスリープです。沐浴感覚を味わえるように、香りのチップがついています。
寝る前に、口に縦に一本テープを貼る習慣を付けると寝起きがスッキリします。
どうして口テープを貼るとイビキが改善するのかというと、唇同士がくっついているときは舌もそれにあわせて唇近くに移動します。ところが口が開いてしまうと(唇同士が離れてしまう)仰向け状態で舌が気道の方に落ち込んでしまって、イビキになるんですね。
寝ているときも口を閉じていることが大切なんです。
「世界一簡単な驚きの健康法マウステーピング」発売中
これは私が2021年8月に出した本です。口閉じテープ(マウステープ)の解説の他に、さまざまな症例が掲載されています。
口テープで無呼吸指数が改善
さて、みらいクリニックに通院している患者さんで、睡眠時無呼吸症候群で悩んでいる方10名の方に協力してもらって口テープ前後で無呼吸指数がどう変化するかを見てみました。
そうすると平均で約30回あった無呼吸指数が、12回にまで減りました(翌日)。
これはただ口テープを貼っただけなんです。それだけで半分以下に無呼吸指数が改善するんですね。
中等症の睡眠時無呼吸症候群が、一気に軽症になるんです。3ヶ月の努力をしなくてもいいんです(もちろん日々のあいうべ体操は継続ですよ)。
一番改善した方では、56.5回あった無呼吸指数が、テープを貼った日は16.2回と一気に1/3にまでなりました。
実は、この方はCPAPをしていたのですがあいうべ体操と口閉じテープ(マウステープ)をして半年ほどでCPAPが不要になりました。
高脂血症や高血圧を改善するのに、食事や運動が有効、重要なように、睡眠時無呼吸症候群を改善するのも日々の取り組み大切なんです。
そう考えると、睡眠時無呼吸症候群も生活習慣病といえます。
今回のブログは、イビキを改善するセルフケアについて書きました。ぜひ取り組んでみて下さい。
執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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