日本では認知症治療薬が保険適応になっていますが、なんとこの度フランスでは認知症治療薬4種類が公的保険から外されてしまいました。
アルツハイマー病治療薬・フランスで医療保険から外れる 変わる認知症治療の潮流とは
理由は「治療効果が認められないから」というもの。日本でも議論が続いており、やはり認知症に関しては薬に過度な期待を寄せず、予防する、自衛するということが大切になりますね。
さて、脳を鍛えるなら、舌を鍛えなさい1では、脳の中にたまった老廃物を取り除くのに睡眠がとても大切だという話でした。
そして、最後は三浦雄一郎さんと舌のお話しで終わりました。
今回は、舌のお話しです。
これからどうして舌を鍛えると脳が鍛えられることになるのかを説明しましょう。
舌を鍛えると睡眠が改善する
舌というのは、口からちょこっと見えているところだけではなく、そのさらに奥まで連なっている結構大きな筋肉です。
牛タンでいうと私たちの口の中に見えているのがタン先、焼き肉などに使用される柔らかい部分はタン元とよばれて食道に近い部分になります。
その他、舌骨に付着して動く舌筋群(舌本体の外にあるので外舌筋といいます)などたくさんの筋肉によって複雑な動きができます。
考えてみれば出したり引っ込めたり,回したり、くるっと丸めたりできるってすごい動きですよね。
残念ながら体の他の筋肉と同じように、舌の筋力も年と友に衰えていきます。
その結果として何が起こるかというと睡眠時無呼吸症候群です。
年と共に衰えた筋肉が垂れ下がってしまって気道を塞いでしまいます。加齢だけでは無く、アルコールや過度の疲労などによっても舌の緊張が解けてしまって気道をふさぎます。
この塞がれた気道を空気が無理矢理通る時に引き起こされるのが「いびき」です。
仰向けになった時にこの気道の塞がりは顕著になってしまいますから、いびきの防止法として「横向き寝」が推奨されるわけです。
横向きに寝てももちろん舌は下側に移動してしまいます。気道を塞ぐことは防げますが、やはりまずは衰えてしまった舌の筋力を付けることなのです。
このために「あいうべ体操」や三浦雄一郎さんが実践しておられるようなベロ出し体操、舌回しなどが有効なのです。
いつもいびきをかいていたり、睡眠時無呼吸症候群があれば睡眠の質が低下しますから脳の老廃物が排出されにくくなってしまいます。
慢性的睡眠不足はβアミロイドが脳に蓄積する危険因子なのです。
実際に舌や表情筋を鍛えることでいびきが減ったり、無呼吸のひどさを表す指標にAHI(無呼吸低呼吸指数)が改善するのです。
もちろん手っ取り早く改善するには寝る時の「口テープ(マウステーピング)」がいいですね。
舌を鍛えると脳リンパの流れが良くなる
脳におけるリンパ流と言えるグリンパティック系によって脳内の老廃物が処理されていることは「1」で書きました。
その際に、その流れを生み出しているのが、血管の拍動、呼吸、筋肉の動きだとも書きました。
舌を出し入れすると唾液がじゅわっと唾液腺から出てくることが分かるでしょう。唾液腺が舌の動きと連動して「絞られる」ことで唾液が分泌されます。
唾液腺マッサージと同じです。
よく噛むことで脳が活性化すると言われますが、舌の出し入れも同じような効果が得られると思われます。
舌体操でリンパの流れが良くなる
とてもゆっくりとした流れのリンパ管は皮膚の静脈と同じように弁があります。これがリンパ液の逆流を防いでいます。
ところが首から上のリンパ管にはこれがないといわれています。と言うことは絶えず体の中心部へ導いていかなければ鬱滞してしまいます。
これが「むくみ」となるのです。
ですから、顔を優しくマッサージしたり、コロコロしたボールの着いている器具で顔をなぞったりすることでリンパの流れを活発にしてむくみを取るのです。
あいうべ体操をして小顔になったり、フェイスラインがスッキリするのはむくみが取れるからですね。
もちろん長く続ければほうれい線が薄くなったりもします。筋肉をきちんと動かすことはリンパの流れも良くすることなんですね。
ところで、脳脊髄液はリンパ流でもあったと言うことでしたね。
脳脊髄液に特殊なマーカーを入れてそれがどのように流れていくのかを見てみると、マウスの実験では嗅球(匂い神経、脳神経Ⅰ、場所としては鼻の天井)からも流れ出ていることが分かりました。そしてそれが鼻咽頭リンパ組織に流れ込んでいることも。
嗅神経は、脳神経で唯一直接脳から脳外へ飛び出していますからさもありなんといったところですが、やはり結果を示されると、そうなんだなと納得します。
この嗅球から流れ出たリンパ液は、鼻咽頭リンパ組織へとたどり着くわけです。
この時に鼻咽頭リンパ組織が何らかの障害を受けていればリンパ流は鬱滞してしまいます。
これを人の鼻咽頭(上咽頭)で見てみましょう。
こちらは、正常な人の上咽頭内視鏡画像です。
適度に湿り気があり、粘膜下の血管もはっきりと見えています。この状態では擦過しても(EAT、Bスポット治療)出血はしません。
さて、こちらはどうでしょうか。
テカテカと光っているのは乾燥して上咽頭粘膜にこびりついた鼻汁です。
これが上咽頭表面をびっしりと覆っています。この部位を擦過すると表面の鼻汁の塊がまるでべっこう飴のようにごっそりと取れ、その下に腫れた粘膜が見えてきます。この粘膜を擦ると容易に出血します。
これが慢性上咽頭炎の状態であり、同部のむくみでもあるんです。
こうなると鼻咽頭リンパ組織が鬱滞することになり脳リンパ流の流れが悪くなってしまいます。
βアミロイドの排出のところで若年者、高齢者、アルツハイマー病と3つ並んだイラストがありましたね。
若年者では効率よく脳内の老廃物が静脈から除去される様子がわかりましたが、アルツハイマー病では静脈に接するリンパ内には老廃物があまり流れていない状態でした。図のCですね。
鼻咽頭リンパ組織の鬱滞は、リンパ管内には老廃物がたくさんあったとしても出口の部分がつまっていますから、徐々に脳内に老廃物がたまったりすることが考えられます。
循環不全を起こした上咽頭ではウイルスや細菌の感染が起こりやすくなったり、自浄作用が働かないために汚れた空気などに含まれる粉じんにより局所の炎症が起こってしまいます。
鼻咽頭リンパ組織の鬱滞から、頭蓋リンパ流の鬱滞が起こる可能性が示唆されます。
そのために何ができるかというと・・・
鼻咽頭リンパ組織の鬱滞を防ぐためにあいうべ体操、上咽頭炎を悪化させないため、改善させるために塩化亜鉛塗布(EAT,Bスポット治療)、鼻うがい、オーラルケアなどができます。もちろん鼻呼吸はマストです。
舌を動かすことは脳を動かすこと
有名なペンフィールドの図を出すまでもなく、口周りを動かすことは脳に大きな神経刺激を与えるだけではなく、脳を直接的に動かしてグリンパティック系の循環を改善させたり、脳リンパ流の流出路である鼻咽頭リンパ組織の鬱滞を防ぐことにも繋がります。
このことからも積極的に舌を動かすことが推奨されます。
三浦敬三さんは、自ら思いついたことでやったとはいえ、この様な理論的背景が分かってくると、ベロ出し体操、あいうべ体操の大切さより理解出来るのではないでしょうか。
もちろん私も当初からこの様な知識があって始めたわけではありません。
この様な新知見を勉強すると自分でもさらにあいうべ体操をガンバらねばと思います。
皆さんも頭脳明晰で楽しく充実した人生を送るために舌を普段から意識して動かすようにして下さいね。
また第6回日本病巣疾患研究会学術集会では、「頭頚部の循環に関する再考:特に静脈・リンパ灌流経を中心にして」と題して上馬場和夫先生(ハリウッド大学院大学教授、帝京平成大学東洋医学研究所客員教授)の講演がありますので、興味のある方はぜひ聴講して下さい。
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執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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