毎晩下着に血がついていた日々がウソのように
一年前の2016年11月、80代のKさんは原因不明の痒みに悩まされていました。
全身に広がる赤い発疹がとにかくかゆい、かいてかいて掻きむしってしまいます。
痒みで度々就寝中も目覚めてしまいます。「こりゃたまらん」ということで近くの皮膚科を受診しました。
ところが、そこでは「重症なので診きれない」と言うことですぐに大学病院を紹介してもらいました。
大学病院では、まずは「慢性じんま疹」とのことで治療が始まりました。
飲んでいた薬は、
プレドニン5mg(副腎皮質ホルモン)、ネキシウム(胃薬)、タリオン(抗ヒスタミン薬)、ポララミン(抗ヒスタミン薬)でした。これでも治まらないのですから、大変にやっかいな状態だと言うことが分かります。
ところが服用してもそれほど状態が改善するわけでも無く、痒みと不眠、そして掻爬による出血に悩まされる日々は続きました。
むしろ症状はひどくなっているんじゃないだろうかとさえ思えました。80歳を過ぎてこのまま死んでいくのかと思うととてもつらい気持ちにもなりました。
そんなことが半年ほど続いた頃、いつまでこの状態をガマンしなきゃいけないのだろうと悩んでいろいろ探したところ、たまたまみらいクリニックを見つけて思い切って受診してきたのです。
原因は口呼吸と慢性上咽頭炎
最初からみらいクリニックを目指して受診してくる方は余り多くありません。最初は普通に医療を受けていたけれど、なかなか治らなくて「これはどうしたものか」と悩んだ末に、ネットで検索して受診してきました、という方が多いんです。
みらクリは、口呼吸を鼻呼吸に変えて病気を治していくというのをコンセプトにしていますが、今のその病気の原因が「まさか口呼吸だ」とは夢にも思いませんよね。
Kさんが診断された「慢性じんましん」ですが、原因物質、アレルギー物質を探すのはとても困難です。血液検査で特異的IgEを調べてもそれほど大きな意味はありません。
それよりも慢性じんま疹の場合は、病巣検索をして、病巣治療をした方が改善する場合があります。
つまり「何が原因か突き止める」前に「何かに対して反応しない体を作る」ことを目的とすれば良いのです。
もちろん、反応している物質などが分かればそれに越したことはありませんが、分かることは残念ながらそれほど多くないのです。
私は、Kさんの湿疹は慢性痒疹ではないかと診断しました。さまざまな薬剤が投与されていたので症状が修飾されている可能性(本来のものとはちょっと違っている)はありますが、のたうち回るほどの痒みと結節は痒疹を疑わせるに充分です。
そして治療に抵抗性のところも。
これまでも痒疹の治療を何例も行っていますが、やはりほとんど口呼吸、慢性上咽頭炎が関与していました。
しかし、皮膚疾患の鑑別はほんとうに難しいですね。私も患者さん方がいろいろな皮膚科を受診してきた上での話ですから「後医は名医」のたとえの通り、色々な可能性を捨てることが出来ますが、いきなりの受診してきた皮膚病というのは診断は出来ないでしょう。
虫咬症や接触皮膚炎と思っていたとしても、まったく違った疾患だったという可能性もありますから。
例えば内科的な意識障害の鑑別も様々な病気が挙げられますが、湿疹という何気ない症状であっても鑑別診断は多岐にわたります。それを鑑別していくのは、慣れた作業とは言えかなり頭を使う作業であることは間違いありません。
これって大変なことじゃないですか!
先日相田歯科・耳鼻科で診療をしている時にある皮膚疾患で受診してきた女性がいました。
私が口呼吸によって起こる弊害などについて説明をするとその女性が
とつい口について出てしまいました。
だから私は、口呼吸問題について声を大にして伝えているんです
医学部でも「口呼吸の問題・弊害」なんて一切習いませんでした。そして今でも習うことが無いでしょう。大部分の医師は全く口呼吸のことなど知らないままでしょう。
私が当初「口呼吸」で起こる問題を知った時に
と激しい衝動に駆られました。
本当に口呼吸の弊害を知れば、この女性が思わず言ったように「大変なこと」なんですよ。
痒疹の原因は
今回のKさんにもそのことを伝えました。口呼吸と慢性上咽頭炎が現在の症状を引き起こしている可能性があること、そしてその治療法について。
Kさんもすぐには理解出来ませんでしたが、今の症状から今すぐにでも解き放たれたいですからたとえ腑に落ちなくても治療を受けざるを得ません。
人は、緊急事態、切羽詰まっている時には正常な判断を下すことが出来ません。そして未来のことなど一切考えることが出来なくなります。
突然溺れてしまった状態になったと想像してみて下さい。
とにかくもがいて、苦しさから逃れること、命の危機を脱することだけしか考えられずに、例えばそれまで大切な明後日の試験のことについて真剣に考えたとしてもそんなことは「どうでもいいこと」になります。
私たちは緊急の時は正常な判断が出来ません。オレオレ詐欺に引っかかってしまう人も、「バカだなあ、騙されて」と笑うことは出来ません。
緊急事態なんだ、と思わせられてしまうと正常な判断が出来ません。
これは日常診療でも同じです。Kさんも今の症状から逃れたい一心なので、私の治療法について頷くしかありません。
ですから、きちっと症状を抑えること、Kさんにとって不利にならないことを医師として提供する義務があります。
私は、Kさんの症状は「口呼吸」と「慢性上咽頭炎」によるものと判断しました。
EAT(上咽頭擦過治療)を行ってみるとはたして重症の慢性上咽頭炎と診断出来ました。
治療の結果は?
2週間に一回のEAT(上咽頭治療)と鼻呼吸獲得のためのセルフケア(口テープ、ミサトール)が始まりました。
最初の2ヶ月は全く変化がなく、眠れない日々、掻きむしる夜が続きました。
こうなるとKさんはもちろん焦りますね。これでいいのだろうかと。私も、一日でも早く改善して欲しいですから、焦りはしませんがあれこれ頭を捻ります。
ようやく3ヶ月目に入った頃から
とか
という言葉が聞けるようになりました。この時点ではプレドニン(副腎皮質ホルモン)や抗ヒスタミン薬は中止できていました。
あれだけ掻爬痕(掻きむしりあと)があったKさんの肌もすっかりキレイになりました。
と、とても喜んでいました。何より眠れるのが嬉しいと。
こうして約半年にわたったKさんの治療は終わりました。もちろん最後はクスリゼロ!
最後は、あいうべ「べ~」とやってお別れをしました。
肌の悩みや痒みで悩んでいる方は、まず口呼吸対策からやってみてはどうでしょうか?
あいうべ体操、口テープだけでも改善することがあります。
何も病院で薬をもらうだけが治療ではありません。21世紀は、セルフケアの時代です。
薬も大事ですが、同じように、いえそれ以上に大切なのが日常生活習慣です。
執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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