コロナ後遺症(LongCOVID)と慢性上咽頭炎(特別外来を終えて)

去る2月7日に相田歯科耳鼻科(東京荒川区)にてLongCOVID特別外来を行いました。その様子をかいつまんで紹介しながら、私見を述べます。

まず誤解を恐れずに記述するなら

コロナ後遺症(LongCOVID)≈ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)≈慢性上咽頭炎

との考えをさらに強くした外来でした(ここに記すのはあくまでも今井一彰個人の意見です、LongCOVIDに関してはこれからも様々な知見が発見、蓄積されていくことと思います、あくまでも参考程度になさって下さい)。辛い症状で悩まれている方々の一日も早いご回復をお祈りいたします。

※またここでのLongCOVID(コロナ後遺症)とは、治療に伴う症状(例えばICUシンドロームや気管内挿管抜管後の呼吸器の不調)などは含みませんのでご理解賜りますようお願いします。またLongCOVID(コロナ後遺症)が具体的に何を持って定義されるのかは、これから変化していくことも考えられますので、2021/02/12(記入時)時点での内容であることも合わせてご理解下さい。

外来の様子

診療は相田歯科耳鼻科にて行いました。通常は1時間に10人ほど診察するのですが、今回は2名のみでじっくりと診療に当たりました。

これが診察の様子ですが(モザイク処理の人物は関係者です(^^; 紹介のために撮りました)

右側に内視鏡がありこれで上咽頭を観察しながら治療します(E-EAT内視鏡下上咽頭擦過治療)。

受診者は、PCR陽性後のコロナ後遺症(LongCOVID)あるいは諸般の事情でPCRが受けられなかったにしろコロナ後遺症類似症状のある方々です。

8名診察しましたが、その全てに慢性上咽頭炎が存在しました。おそらく全員にあるだろうなとは思っていましたが、はたしてその通りでした。

ここで注意しなければならないのは、数名の人が「鼻/副鼻腔/咽頭の症状がない(自覚していない)」と言うことです。

こちらから問いかけて見ると「そういえば鼻が詰まることがある」とか「後鼻漏を感じることがある」という程度です。

考えられるのはこんな感じでしょう。

  • 他の症状がひどすぎで症状として知覚されない
  • それまでそれが普通で過ごしてきたので症状として捉えられない
  • はじめて経験することなので症状に気がつかない

堀田先生の論文でもCFS(慢性疲労症候群)の人の45.2%に咽頭痛やのどの不快感という症状があるとされています。また咽頭痛はCFSの患者さんではよく見られる症状です。

Chronic epipharyngitis: A missing trigger in chronic fatigue syndrome

ですから、「症状がないからと言って病気が存在しないとは限らない」という単純な事実に気がつくことが重要ですね。ある意味現代は情報によって病気が診断されます。高血圧、糖尿病、脂質異常症すべて”症状がありません”(ひどくなるとありますよ)。ですからサイレントキラー(静かな殺し屋)なんて呼ばれるわけです。

中には咽頭痛、不快感があり耳鼻科を数件受診したという人もいましたが、「異常なし」と診断されています。ところがE-EATをしてみると極度の慢性上咽頭炎が存在するのです。

ME/CFSと慢性上咽頭炎

まずME/CFSと慢性上咽頭炎について記してみます。これは日本病巣疾患研究会(JFIR)の会員で出した上記論文ですが、

概要を訳してみます。

鼻腔の奥に位置する上咽頭は、通常の状態でも免疫学的に活性化される部位であり、感染性病原体、空気中のほこり、化学物質、その他の刺激物質に反応して免疫学的活性化が促進される傾向がある。 慢性上咽頭炎は広く理解されている状態ではない。 しかし、神経系と自然免疫系および後天性免疫系の両方と密接に関連しているため、慢性疲労症候群やその他の身体症状を含む神経内分泌障害の発症の引き金として重要な役割を果たす可能性があある。 したがって、「上咽頭と脳の相互作用」は、慢性疲労症候群の患者を管理する上で検討する価値があり、 慢性上咽頭炎とその脳の相互作用が完全に理解されていないことを考えると、この状態に将来の研究を集中することが重要となる。

こちらはJFIRサイトから全文が読めますので、リンクをたどって下さい。同様に概要を訳します。

Involvement of chronic epipharyngitis in autoimmune (auto-inflammatory) syndrome induced by adjuvants (ASIA)

 

上咽頭は通常の条件下でも免疫学的に活性な部位であり、免疫学的活性化の増強は、上気道感染症、大気汚染、そしておそらくワクチンアジュバントに反応して起こりがちである。中枢神経系と免疫機能の間の潜在的な関連性のために、上咽頭炎と自律神経障害、および自己免疫疾患との関係が示唆されている。因果関係は確立されていないが、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種後にさまざまな機能性身体症状が報告されている。 HPVワクチン接種後に機能性身体症状を示している若い女性の上咽頭を調べたところ、驚いたことに、咽頭に関連する症状は最小限だったが、すべての患者が重度上咽頭炎を患っていた。さらに、上咽頭治療を受けたほとんどの患者で症状の有意な改善が見られた。したがって、ワクチンアジュバントによって引き起こされる可能性のある慢性上咽頭炎は、HPVワクチン接種後の機能性身体症候群(FSS)の病因に関与している可能性があると推測され、さらに、上咽頭治療は、初期の原因に関係なく、さまざまなタイプのFSSや一部の自己免疫疾患に有効である可能性があり、これが将来の研究における重要な方向性となる可能性があることを示唆する。

同様の報告はJFIR会員でEATのリーダー的存在である田中亜矢樹先生からも報告されています。

まだまだ世界的には認められていませんが、ME/CFSと慢性上咽頭炎の関連はこれから必ず話題に上ると思います。

上の図は、アジュバント(ワクチンに含まれる免疫賦活剤)や様々な病原体、汚染物質などにより上咽頭に炎症が起こりそこから慢性疲労症候群が引き起こされていく模式図(予想)です。ME/CFSが「脳の炎症」から起こっているとするとまさにそれを増悪させるのが慢性上咽頭炎です。

LongCOVIDと慢性上咽頭炎

さてLongCOVIDと慢性上咽頭炎ですが、ある程度の確信を持って臨んだ理由はこちらのブログに書いてあります。

コロナ後遺症は慢性上咽頭炎に酷似している (2020年7月)

コロナ後遺症特別外来(慢性上咽頭炎)(2020年12月)

LongCOVIDでは、脱毛と嗅覚障害が特異的な症状として言われていますが、嗅覚脱失は新型コロナウイルス受容体であるACE2が嗅上皮の支持細胞/分泌細胞、そしてまた気道上皮の基底細胞/分泌細胞/上皮細胞に存在していることから、それらの機能障害として引き起こされる症状なのでしょう。

脱毛は、毛根に対する自己抗体発現(たとえば円形脱毛症など)で引き起こされることがありますが、EAT(上咽頭擦過治療)にて改善することをしばしば経験します。

何らかのウイルス上気道感染後に慢性上咽頭炎が引き起こされることが発症の一つの様式だとすると脱毛もEATにて改善することが示唆されます。

写真に示すことはできませんが、PCR陽性後のME/CFS様症状で受診した内の3名中2名は極重症の慢性上咽頭炎でした。

この写真は、田中亜矢樹先生のものですが(Involvement of chronic epipharyngitis in autoimmune (auto-inflammatory) syndrome induced by adjuvants (ASIA)より、CFSにおける上咽頭炎治療の様子ですが、これよりもずっとずっとひどい炎症がLongCOVIDの場合には存在したと思って下さい。

その場の全員が息を呑む程度の炎症で、年に数百例の新患を見ている私でも年に数回見る程度のひどさで、ましてや連続してこの様な所見が続くのは初めての経験でした。とはいえ慢性上咽頭炎には変わりがありませんから、治療はEATが大きな役目を果たすことは間違いないでしょう。

むしろ上記したように「鼻/咽頭の症状がない」事の方が問題で、知らず知らずのうちに慢性上咽頭炎による症状を引き起こしている場合がありますから要注意です。

何度も何度も出てくるイラストなので恐縮ですが、これらで3つ当てはまれば慢性上咽頭炎の存在が強く疑われます。

特に症状として重要なのは、のどの違和感、咽頭痛、締め付け感です。

息苦しさと表現されることもあります。

LongCOVIDとME/CFS

俄に注目を浴びるようになってきたLongCOVID(コロナ後遺症)ですが、これまでウイルス上気道感染後に引き起こされるME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、これらは同一疾患とされます ここにウイルス感染後疲労症候群も含まれるでしょう)で苦しんでいる人はとても多く、アメリカでも2500万人いるとされています。

むしろ日本で上気道感染後の遷延する倦怠感や不調に対して「気のせい」「自律神経症状」「メンタル」「気長に付き合え」などど理解のされない状態が続いてきた(続いている)子の方が問題なのです。

ME/CFSは世界中でその治療法を巡って様々なことが行われていますが、めざましい効果を上げているものはありません。その点からEATが80%の人に効くとする上記論文が重要な意味を持っていることが分かります。

JFIRではEATがME/CFSに対して大きな役割を果たすと考えていますが、似たようなアプローチをしているアメリカの研究者もいます。鼻腔内から迷走神経を刺激してME/CFSを改善させたというのです。まさにEATと同じ発想です。

Achieving symptom relief in patients with Myalgic encephalomyelitisby targeting the neuro-immune interface and inducing disease tolerance(全文読めます)

概要を訳します。

以前は慢性疲労症候群(CFS)としても知られていた筋肉痛性脳脊髄炎、MEは、世界中の何百万人もの患者の長期にわたる障害の原因となる原因不明の不均一で衰弱させる症候群である。 MEの最もよく知られている症状は運動後の倦怠感だが、多くの患者は自律神経の調節不全、脳神経の機能不全、免疫系の活性化の兆候も経験している。多くの患者はまた、感染後の突然の病気の発症を申告する。脳幹はMEの病因の疑わしい焦点であり、脳幹の構造障害のある患者はしばしばMEのような症状を示す。脳幹はまた、迷走神経が発生する場所であり、全身性炎症を調節する重要な神経免疫インターフェースおよび炎症反射のメディエーターである。ここでは、迷走神経核およびME患者の脳のより高い中心を標的とする鼻腔内機械的刺激(INMEST)を使用したランダム化プラセボ対照試験の結果を報告し、数週間後にに全体的な症状スコアの持続的な約30%の減少を起こした。これらの患者の血液免疫系の縦方向のシステムレベルのモニタリングを実行することにより、MEの慢性免疫活性化、およびIL-17軸、腸ホーミング免疫細胞、炎症の減少を中心とする改善の免疫学的相関を明らかにする。症状緩和のメカニズムはまだ解明されていないが、転写分析は耐病性メカニズムのアップレギュレーションを示唆している。これらの結果がMEに苦しむ患者に希望をもたらし、研究者がMEが条件であるという新しい仮説を検証するのに役立つことを願ってる。

これが執筆者たちが使用している鼻腔内刺激装置です。迷走神経を持続的に刺激して症状緩和へ導きます。グラフが小さいですが、70日後にはかなりの症状が消失していることが分かります(大きな図を見たい人は論文を見てください)。

迷走神経刺激はは現在、心臓病、炎症など、さまざまな病気や状態で評価されています。クローン病、うつ病、脳卒中、耳鳴り、糖尿病、片頭痛、過敏性腸症候群など。

迷走神経の役割についてはこちらのページを参考にして下さい。

まさに上咽頭は迷走神経の分布域であり、ここを刺激することは全身の炎症を軽減することなのです。もちろん「あいうべ体操」も迷走神経刺激になりますから、気軽な治療として役立てて下さい。

その倦怠感、COVID-19の後遺症かも(日経メディカル)では、国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部特任研究部長の山村隆先生が、「上咽頭を亜鉛の入った溶液でこする、上咽頭擦過療法を行うことで症状が多少楽になったという患者もいる」 というコメントを出しています。これがEATのことなのです。

(日経メディカルより)

LongCOVIDもおそらくME/CFSの一部としてこれから認識されていくことになるのではと思っています。

堀口申作先生がEATを普及してすでに50年以上が経過しました。もちろん紆余曲折があり、1980年代には多くの耳鼻咽喉科で施行されていたと聞いています(当時はBスポット治療と呼ばれていました)。それがいくつかの理由により廃れていき、堀田修先生が再興したのが2000年代前半です。

新型コロナウイルスの流行により思いがけず慢性上咽頭炎の存在が大きな意味を持つようになってきました。

堀口先生が(もちろん私は面識はありませんが)現状を見るとどの様に感じられるでしょうかね。

外来裏話

当日は、コロナ後遺症外来で大活躍をしている平畑先生(ヒラハタクリニック)とJFIR会員でもありME/CFS治療に取り組んでおられる申先生(関町内科クリニック)のお二方も参加して下さいました。平畑先生に受診中の方もE-EATをしましたので、実際の上咽頭の所見を共有することができました。

このショットは外来終わりのものです。中央は受診された方で、この方が平畑先生にLongCOVIDの診療をお願いしたのが切掛で、いまでは1000人を超える患者さんを治療するようになったそう。平畑先生はもともと消化器内科ですが、「知ってしまった」が故にLongCOVID、ME/CFSの診療を一所懸命取り組んでいます。

体を壊さないか心配です(^^;

国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部特任研究部長の山村隆先生がEATを知っていたのは、申先生との繋がりです。じつは山村先生は日本医療研究開発機構(AMED)に設置されたME/CFSの研究班班長が山村先生で申先生はその委員のひとりでもあります。

NHKプロフェッショナル仕事の流儀で慢性疲労症候群の会に出演された天野惠子先生がAMEDの会議に出席されたときにも申先生も写っていました。

 

右が申先生、左が天野先生(NHKプロフェッショナル仕事の流儀より)

診療後は、堀田修先生(JFIR理事、私のボスですな)との対談、そしてLongCOVIDに対して座談会を開きました。

写真左から平畑先生、今井、堀田先生、申先生、相田先生です。

平畑先生はこの座談会の後に外来診療があったそうで、引き留めちゃってほんとうに申し訳ないことをしました。帰りは一緒にタクシーで(^^;

夜遅くまでオンライン診療をしているようですから、お身体が心配です。

さてこの様にあっという間に終わった一日でしたが、得るものが大きく、これらをこれからの治療にもしっかりと還元しなきゃと改めて心に誓って帰路につきました。

執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール

今井 一彰
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医・NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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