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歯周病と全身疾患~最新の研究から
さて日本大学歯学部特任教授の落合邦康先生をお招きしての細菌学講座、最終回です。
医療界は大きく、医科・歯科に分かれるのですが(薬科もわすれちゃいませんよ)、医師や看護師などいわゆる普通の病医院で働く人たちは医科となります。
歯科は、歯科医院や歯科口腔外科で働く人たちですね。
医科から見た口の中の感染症というのは、ほとんど学ぶ機会がないので新鮮な驚きばかりです。
同じ体の中なのに、知らないことがたくさんありますね。
これまで落合先生には、様々な話題に答えていただきました。
最終回は、「歯周病と全身疾患~最新の研究から」です。
- 「ペリクル」から始まるデンタルプラークの形成
- プラークの成熟と石灰化(歯石)
- 歯周病と炎症反応
- 歯周病と骨吸収
- 歯周病と全身疾患~最新の研究から
動画をご覧下さい。
口の病気と全身の病気の繋がり
これヒポクラテスの時代から分かっていたが、詳しくわかってきたのは近年のことです。
原因 と 誘因
の違い。
落合先生は、学者でいらっしゃるので語句の用い方をとても重要視されます。
原因:名]ある物事や、ある状態・変化を引き起こすもとになること。また、その事柄。「失敗の原因をつきとめる」「不注意に原因する事故」「原因不明の病気」⇔結果。
誘因:ある事柄を誘い出す原因。「物価上昇の誘因」
原因はその結果を直接的に引き起こすものごと、誘因は、その結果を引き起こす切っ掛けを作ったりことですから、その病気が歯周病菌が「原因」となったのか、「誘因」となったのかは区別してお伝えした方が納得してもらいやすいでしょうね。
こちらが原因
歯周病菌 → 血管内に侵入 → 血管が詰まる → 脳梗塞
こちらは誘因
歯周病菌 → 歯肉の変化 → 抗CCP抗体産生 → 関節リウマチ発症
こんな風な理解ですね。
歯周病が原因・誘因となって起こる全身の病気
これは細菌いろんなところで話題になっていますから知っている人も多いと思います。
今回の春季歯周病学会で落合先生が発表されるのが
「歯周病菌とアルツハイマー病の関係」
です。
ここから出てくるのが「腸脳相関」です。
腸内細菌と全身の健康についていろいろなメディアで耳にするようになりました。
腸の環境が脳にも影響を与えているという証拠がどんどん出てきています。
まず第一の実験
#PG菌(歯周病菌)のLPS(lipopolysaccaride、リポポリサッカライド、エンドトキシン)を腹腔に注射します(腸の中ではありません)そうすると血行性に脳へ入っていきます。
(動画に出てくる九州大は、PG菌のLPS研究にも力を入れていらっしゃいます)
そうしてPG菌がアルツハイマーを引き起こすβアミロイド(老人斑という別名も・・・)の沈着をさせているのではないかという実験。
ここで問題となってくるのがBBBです。
BBB(血液脳関門とは)
BBBとは、blood brain barrierの略で日本語だと血液脳関門と訳されます。
脳は他の臓器とある意味「隔離」されているので、いろんな物質が直接脳に到達しないようにコントロールされています。
例えばサイトカインのような大きな分子はBBBでブロックされてしまうと思われていました(詳しくは上のwikipediaを参照のこと)。
ところが・・・
脳の中からPG菌のDNAが見つかったという報告もあり、いろいろな物質を通すことが分かってきました。
私の知識もまだまだアップデートできていませんね(^^ゞ
#つぎの実験。
落合先生のところでは、このPG菌のLPSを歯肉に注入したところ、同じようにそして腹腔よりもひどい程度のβアミロイドの沈着が認められたとのことです。
アルツハイマーやうつ病も脳の慢性炎症か?
これからは、私見。
うつ病、統合失調症の方は口腔内環境が悪い(つまり口が汚い)。
ここを綺麗にすることで(まずはしっかりと歯みがき)症状が改善することがあります。
歯肉に酪酸(第4回を参照)すると、3時間程度だらだらと酪酸がたまると言うことが分かりました。
酪酸は、腸管内でも生み出されるのですが(酪酸菌などによって)、これは門脈から肝臓を通るとキレイに分解されてしまいます。
ところが歯肉の周りには肝臓がありませんから、解毒が出来ません。
酪酸は、腸管内で濃度が低い状態では体にとって好影響(例えばがん予防)になりますが、濃度が高いと組織破壊を引き起こしてしまいます。
そして、口の中とくに歯肉下縁ではPG菌が酪酸をどんどん生み出していますから、酪酸の濃度が高い、さらに解毒されないとなると・・・
これは体にとって一大事ですね。
酪酸は、BBBを簡単に通り抜けますから、これが脳に与える影響は見過ごすことが出来ません。
この酪酸の二面性には驚かされます。
だからオーラルケア(口の中の環境を改善する)ことが大切なんですね。
インフルエンザ予防にもオーラルケア
口の中の慢性炎症がさまざまな病気を引き起こすことが分かっていますが、インフルエンザ予防にもオーラルケアが大切です。
歯周病を中心として、認知症、心筋梗塞、肺炎、骨粗鬆症、早産、流産、がん、メタボリックシンドローム、血管病、糖尿病などの発病が高まってしまいます。
さらにインフルエンザウイルスが、ヒトの細胞の中に入り込んで、そして増殖して、細胞の外へ広がっていくのに口腔内細菌の持っているある種の酵素が大きな役割を果たしています。
そのためにも、口呼吸をまず予防、防止です。
口呼吸は
- 口腔環境悪化
- 歯周病悪化
- 歯並び悪化
- 心身不調
など体に悪影響をおよぼします。
その歯周病について、今回5回シリーズで日本大学歯学部特任教授の落合邦康先生にお話を伺いました。
落合先生は、全国で講演をしていらっしゃいますが、まだ聞いたことがないという方ぜひご依頼を!!
最後に
この5回シリーズを通して感じたこと。
それは、「予防」の大切さです。
予防は、あまり評価されません。
治療の方が評価されますが、でも大切なのは予防です。
あなたも私もほぼ全員病気になります。
なってしまった後で気づくのです。
「あぁ日頃から気を付けておけば良かった」
そんなことがないようにお互い気を付けたいものですね
落合邦康先生、本当にありがとうございました。
落合邦康先生は、精力的に講演活動をなさっています。
講演を希望される方で、連絡先が分からない場合は、みらいクリニック問い合わせフォームから聞いていただくとお答えいたします。
※5回シリーズ中で、間違いや不明点があればそれはすべてひとえに私の理解力不足、伝達力不足によるものです。落合先生の責任ではございません。
執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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