私の拙い経験ですがこれまで(2021年6月現在)分かってたことについて記そうと思います。もちろんこれから内容が変わっていく可能性は十分ありますので、そのことを踏まえながら読んでいただけると幸いです。あくまでの今井個人の意見ですから、その点を十分ご理解いただき読んでください。
コロナ後遺症の倦怠感を甘く見てはいけない
さて、こちらは6月17日(2021年)付けの読売新聞記事です。主にみらいクリニックでの事例を紹介しています。
ころまでの取り組みなどに興味がある方は、以前のブログをご覧下さい。
まだプレプリントの状態ですが、コロナ後遺症について約5万例をまとめた文献が発表されました。年齢17歳から87歳を調査したところ80%の患者にコロナ後遺症と見られる症状が残っているとされたものです。たとえば急性上気道炎後に数ヶ月に分かって咳が残り咳喘息と診断されることはしばしばです。あるいはこれまでも報告されていたように、ウイルス感染後疲労症候群の発症は今回のコロナ禍においても起こりえるものでした。
上の文献からは、疲労感58%、頭痛44%、集中力低下27%、脱毛25%、呼吸困難24%とされています。
もちろん嗅覚、味覚障害なども起こりますし、咳や咽頭痛、後鼻漏といった症状もあります。これらは急性上気道炎後の”後遺症”としてはごくごく当たり前の事です。
ですが、特に重篤なME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)が続発してしまって日常生活がままならないという人が”多過ぎ”ます。
みらいクリニックでも下は15歳から上は70歳までの著明な倦怠感を訴えるコロナ後遺症のケースを経験しています。
従来からME/CFSを治療してきたものにとってはよく理解できる症状ですが、初めての経験となると患者さん本人はもちろんですが、周囲も理解ができません。
「風邪なのにどうして動けなくなるの?」
「すぐ治るんじゃないの?」
「働く(勉強する)気が無くなったんじゃ無いの?」
という無理解な言葉がさらに患者さんを苦しめます。これは周囲の人を責めるわけにもいきません。なにしろ初めての経験なのですから。
10代20代30代の若い人たちがコロナ感染して入院あるいは療養をしている期間は発熱もひどくなくある程度平穏に過ごせていたものが、数週間経つとそれこそ「突然に」動けなくなったり、ひどい倦怠感が襲ってきたりということがあるわけです。
これでは理解に苦しみます。「コロナの時は大したことなかったのに、他に理由があるんじゃないか、療養して楽を覚えたのではないか」と思われても仕方がないことです。
ここで私は明確に「そうではない」と否定をしておきますが、やはり学校、職場、家庭で理解してもらうには困難が伴います。
すぐに仕事に復帰できるのではとよく質問されるのですが、こればかりは「分かりません」と答えるしかありません。
ただ無理に仕事に復帰したとしてもさらなる症状の悪化を招くことがあるため、大丈夫だと思ってからも用心してリハビリの期間を設けることが大切です。
そうすると休職扱いから退職しなければならなくなったり、休学しなければならなくなったりすることもありますから問題は簡単ではありません。
慢性上咽頭炎が無ければコロナ後遺症は起こらない?
重症コロナ後遺症≒ME/CFSと捉えて、そのベースに慢性上咽頭炎があると判断しコロナ後遺症外来を開設しました。
2021年2月7日のことです(相田歯科耳鼻科にて)。
この当初の推定は間違っておらずコロナ後遺症と思われるほぼ全例に中等度以上の慢性上咽頭炎を認めました。
50例以上を経験してきましたが、軽症慢性上咽頭炎で極度の倦怠感、集中力の低下を認めたものは1例のみです(2021年6月現在)。
これが2月7日の外来の模様ですが、日本で一番コロナ後遺症を診察していると思われる平畑先生(ヒラハタクリニック)も見学して下さり、コロナ後遺症における慢性上咽頭炎の位置づけとその治療としてのEAT(上咽頭擦過治療)を知っていただきました。
申先生(関町内科クリニック)は、日本臨床誌の病巣疾患特集(2021年7月号)においてME/CFSについて論じておられ、治療も積極的に行っておられます。
これを通して平畑先生が6月17日放送のあさイチにてBスポット療法(EAT別称)を紹介してくださいました。
もちろんEAT(Bスポット療法)で全ての問題が解決できるわけではないことに留意してください。
ここで印象的な二つの事例を紹介します。一例目は、新型コロナ感染後も特に後遺症らしきものを発症せず経過しているケースです。
上の写真を見てもらうと、左上の初診時は中央部に一部白色に瘢痕化した部分が観察できます。これはEAT(上咽頭治療、Bスポット治療)を施行した数週間から数ヶ月後に見られるもので上咽頭粘膜上皮が従来の置き換わったものです。これを粘膜変性(上皮化生)といいます。
これに関しては、福岡歯科大学総合医学講座耳鼻咽喉科学教室の西憲祐先生が日本耳鼻咽喉科学会九州連合地方部会での発表にとても詳しいです。
このケースでは、すでにEATにより上皮粘膜変性が起こっており上咽頭炎を起こす素地がなかったためにコロナ後遺症へと伸展しなかったと考えられます。
同様に、きちんとEATが成されていれば、慢性上咽頭炎の再発の頻度が激減するという観察結果が納得いきます。
この方の場合も上咽頭を擦過しましたが、出血はほとんど認めませんでした。
では一方、EATを行っていても粘膜変性を起こすに至らなかったケースではどうでしょうか。
同時期に受診した方ですが、EATを当院で行っていたものの症状の経過を認めたため治療を自己判断で中断していたものです。
PCR陽性となりその2週間ほどして倦怠感、四肢のしびれを自覚するようになりました。コロナ後遺症発症パターンとしては典型例と言えるでしょう。
上咽頭を擦過すると
この方の上衣等を観察すると所々で敷石顆粒状変化が見られ、粘膜変性を引き起こすには至っていないことがわかります。
案の定、軽く上咽頭を擦過するだけで著明な出血を認めました。
もともと上咽頭炎が存在していたのでは?
となるとコロナ感染後に上咽頭炎が引き起こされたと言うよりは、コロナ感染がありもともと存在していた上咽頭炎がさらに激しい炎症を引き起こし、それがコロナ後遺症に繋がっているのではという推察が成り立ちますし、そちらの方がすっきりと説明できそうです。
入院、療養中にはそれほどの症状がなかったにもかかわらず遅発性に別の症状が引き起こされるというのは、病巣疾患の一つの特徴です。
例えばIgA腎症では、風邪(急性上気道炎)の後に腎炎が悪化して血尿が出ることがありますし、掌蹠膿疱症でも扁桃炎の後に症状が増悪することを経験します。
ですから、コロナ後遺症の発症様式としては
コロナ感染 → 上咽頭炎 → コロナ後遺症
ではなくて
潜在的CEP(慢性上咽頭炎)存在下において
コロナ感染 → 慢性上咽頭炎の急性増悪 → コロナ後遺症
と考えた方が理解しやすいです。
もちろん上記の2例からのみの観察結果のみならず、他のコロナ感染後2w直後の上咽頭観察の経験からしても同じように捉えられます。
なので、日頃の上咽頭ケアがコロナ感染のみならずコロナ後遺症の発症を防ぐためにも重要であるとか考えます。
私たちが出来ることは、従来の感染予防策に加えて、鼻うがいや口とじテープでしょう。
では、なぜ増悪するのかそしてそれが遷延するのかについて考えていきたいと思います。
それはまた後日のブログで。
読んでいただきありがとうございます。
執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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