【医師解説】掌蹠膿疱症の治療を通して考える「ら」と「せ」じゃ大違い!【もう一度言う】

上咽頭 治療

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こんにちは、みらいクリニックの今井です。動画をご覧いただきありがとうございます。

今日は掌蹠膿疱症の治療を通して考える「ら」と「せ」の違い。「ら」と「せ」じゃ大違い、ということについてお話ししたいと思います。


これだけだと何のことかよくわからないと思いますので、おいおいお話ししていきます。

掌蹠膿疱症とは

掌蹠膿疱症というのは、手のひらとか足の裏に、菌のいない(無菌性)、菌のいない膿疱・水泡が出来て、ぷつぷつぷつぷつと広がって、痒かったり痛かったりするんですけど、そういうのが長年にわたる、5年とか10年とかにわたって続いていく皮膚の病気です。

また、時々爪の形が悪くなったりとか、あるいは関節痛、掌蹠膿疱症性関節炎などを引き起こす時があります。かなり前ですけれども、タレントの奈美悦子さんがとても苦しんだということで一時期話題になって、ビオチン療法がかなり流行りましたね。

ネットでこういう記事を見つけたんです。

DIAMOND online 2019.10.25
https://diamond.jp/articles/-/218443

今日は、「ら」と「せ」じゃ大違いという話ですけれど、
手のひらや足の裏にブツブツ。42歳妻が諦めなさいと言われた病気の正体
というわけですね。
42歳の奥さんが手のひらとか足の裏にブツブツができて、それで病院に行くわけですよ。当然肌の病気ですからどこに行くかって言うと皮膚科に行くわけですね。よもやこういうとこで内科だとかっていう風にはならずにやはり皮膚科に行くわけです。

読んでいくとですね、

赤みがまだら模様を描いて広がり、皮膚はガサガサとしたうろこ状にめくれあがってる。ところどころ黄色っぽい膿(うみ)も見える。手を開いたり閉じたりするのがつらい。歩くのはさらに苦痛だ。

こういうところから関節炎も出てきてることがわかりますね。足裏が悪くても歩くのが辛くなりますけれども。

足裏は、手のひら同様ボロボロに荒れている。細かく硬く、薄いウロコ状のじゅうたん(そんなものがあるとしたら、だが)を踏みしめているような感触と熱っぽさ。

かなり可哀想な状態ですね。程度が色々あるんですけれども、本当にちょこっとしか出ない、肌が少し乾燥してるのかなというぐらいにしか浸出液が出ない方もいれば、じゅくじゅくじゅくじゅくなるような方もいらっしゃるんですね。

掌蹠膿疱症の治癒は諦めなさい?

次ですよ、ここね。

飲み薬と塗り薬をお出ししますが、まあ、難しい病気なんですよ。原因がよく分かっていないので、治療法も確立されていません。お気の毒ですが、諦めてもらったほうがいいかなぁ。

いう風に医者が言ったっていうわけですよ。
これが雑誌なので、フィクションなのかノンフィクション本当にあった話なのか分かりません。元記事はですねダイヤモンドオンラインのこの URL なんですけれども、
https://diamond.jp/articles/-/218443

私も様々に雑誌などの取材を受けてるんですけれども、まあこういう人がいますよという体で論を進めることもあるんですね。
例えばこういう風な質問があるんですけど、それに対して答えてくださいという時に、その質問はある程度ノンフィクションとまでいかないけれども、脚色した部分があったりするわけなので、これが本当かどうかは分からない。でもこういう風に書いてある。ここが問題だと思う。

ちょっと読み進めていきますとですね、

人によっては、鎖骨や胸の中央(胸鎖肋関節症)やその他の関節が痛くなることがあるようです。そうなったらもううちでは手に負えませんから、大学病院か、専門外来を探して受診するようにしてください

ここ、これを言ったとしたらですね、かなり不勉強。確かに胸肋鎖骨症候群・胸肋鎖骨過形成症とかあるのはあるんですけど、後はSAPHO症候群ね。S・A・P・H・O症候群という「ざ瘡」(にきび)ができたりするのがあるんですけれども、大学病院じゃないと治らないとかっていうことは全くありません。外来で診れないかというとそんなことも全くありません。

(諦めろなんて、うそでしょ。何言ってるのこの人、ヤブ医者なんじゃない)

という風に思ったってわけです。
これは仕方ないことかもしれないですけれども、ただし治らない病気があることもこれは事実。私も偉そうに話してますけれども、治せない病気た~くさんありますから、すべてが治せるスーパードクターだとか名医だとかっていうことは一切思ってません。けれどもこの病気に関しては諦めなさいということはですね、そんなことは全くありません。

ではこの方、

ネットで調べると信頼性の低い情報があふれていた

と書いてありますね。

近所の皮膚科医の言葉は本当のようで、検索上位には、通常登場してくるような病院、クリニック、医師によるサイトは出てこない。代わりに「すべての症状は歯に詰めた金属のせい」と断言するクリニック

これは嘘、これは嘘、これは危ない、これはヤバい、これは嘘ですからね。「歯科金属が原因の場合もまれにある」くらいの表現が適切です。

西洋医学では治せない病気を得意とする漢方系の薬局や医院、覚えやすいが変わった名前の治療法の口コミ情報などがあふれかえっており、ところどころ、まともなクリニック、病院の情報が挟まっている。

ということですね。
ここにみらいクリニックの名前があったのかどうか分からないし、怪しげな情報と思われてるのかもしれませんけれども、確かに掌蹠膿疱症って引くとビオチン、それからミヤリサン、ビタミン C が出てくるわけですよ。この三つをたくさん飲んだとしても、例えばビオチンを10g飲んだとしても治らないものは治りません。なのでビオチンにあまり大きな期待をし過ぎないというのは、ブログでもこの動画でもずっと言い続けていることです。ましてやビタミン C などはなおさらですね。ほとんど効果はないと思って頂いても間違いありません。

そして、ここ気になるんです。

覚えやすいが変わった名前の治療法の口コミ情報

これ B スポットじゃないかと思うんですよ笑笑

それ以外にあまりない。 B スポットじゃないかなと思う。

掌蹠膿疱症は自己免疫疾患であり病巣疾患でもある

 

ここで出てくるのが病巣疾患という考えですね。
病巣疾患っていうのは、病巣があってそれらが無症状か、症状はちょっとしかないんだけど、遠隔の臓器に二次疾患を及ぼす病像という風に定義されるわけですね。ですから、原病巣はあるんだけれども、原病巣から離れたところに病気がある。だから病気の原因がどこか分かんないってことがあるわけです。

それらの代表的なものがここに挙げたような、IgA血管炎、IgA腎症、HSPヘノッホ・シェンライン・プルプーラといって、ヘノッホ・シェンライン紫斑病と言われるようなやつ。これらは典型的な自己免疫機序を介した病巣疾患でもあるわけですね。

そしてここに出てきましたね。掌蹠膿疱症、これもそうですね。掌蹠膿疱症に関しては慢性扁桃炎がすごく大きな影響を与えています。特異的な菌が見つかるわけではありません。けれども扁桃のα連鎖球菌に対する免疫の過剰応答。それが手に向かってしまう。ホーミング(homingといい、特定の部位に何らかの理由で向かうこと)してしまって悪さをしてしまうという風な機序が分かっている。

あるいは熱ショック蛋白ですね。Heat Shock Proteinと言いますけど、これもこういう風に悪さをしている時があるという風に言われています。

ですから免疫の状態、複合体としては、免疫ケラチン抗体ができるんじゃないかとか、 HSPに対する抗体ができるんじゃないかなという風に言われているわけですね。

胸肋鎖骨過形成症も同じですね。これらを治していくこと、これらというのは慢性扁桃炎ですけれども、慢性扁桃炎を治していくことが治療につながっていくわけです。

慢性扁桃炎そして扁桃の上位組織とでも言っていい上咽頭炎を治していくことが必要なわけですね。堀田先生は、「扁桃は実行部隊だ。上咽頭が親分だ」なんていう風に表現しておられますけれども、なので扁桃がなくなったとしても親分がまだ生き残っていれば、そこに原病巣があるというふうに考えてもらった方がいいわけですね。

扁桃摘出が掌蹠膿疱症の治療になる

ですからまず扁桃を取るということは治療法の大きなひとつの戦略でもあるわけですね。ということで、どういう風に効くのかちょっと見ていきましょう。

これは古いデータから新しいデータまでいろいろ集めたんですけれども、掌蹠膿疱症、 PPP というのは掌蹠膿疱症のことなんですけど、掌蹠膿疱症に対する扁桃を取った群と扁桃を取ってない群で見分けたという研究です。

扁摘というのが扁桃を取った、扁桃摘出。非扁摘というのが扁桃を取っていないということですね。見てください。有効率、扁桃取ったら84%、取らなかったら39%。これは1977年の論文ですね。

2009年になりますと、扁桃を取ったところ85%、非扁摘、扁桃取らなかったら35%ですよ。
改善率の低いこのデータ(2004)でも、扁桃をとれば61%改善するというわけですね。これは論文によっても違うんですけれど、実に7割から9割の方が扁桃を取ることによって掌蹠膿疱症が改善します。ここ見てください。これは消失率、約半分が消失するんです。

そう考えたら諦めなさいという言葉、全く嘘だということが分かります
扁桃摘出という一週間の入院ぐらいで済む非常に簡単な治療があるにも関わらず、「あきらめなさい、ここでダメだったら大学病院に行きなさい。」そんなことは一切ありませんから。そのドクターが病巣疾患ということを知らなかっただけなんですね。

これはみらいクリニックでも同じことが言えます。
この方は25年間悩んでおられたんですね。初診の時がこれ(向かって左)でした。なのでずっと手袋してた状態ですね、仕事中も。12週後、3ヶ月後、結構綺麗になりました。(向かって右側)

20週の時にほとんどの症状はなくなりましたから一旦治療を終了しています。その後約2年後に別の病気で受診されたんですけれども、その時に手を見せてくださいという風にお話ししたらこの状態ですね(向かって右側)全くあれから再発していませんということでした。

この方の場合は、覚えるのが楽だけれども変な名前という B スポット治療、今ではEAT(イート上咽頭擦過治療、esopharyngeal abrasive therapy)と言いますけれども、EATをしました。

みらいクリニックでですね、これ第3回の日本病巣疾患研究会で当院の患者さんで半年間診てという例を10例診たんですけれども、上咽頭の治療だけで。平均の治療期間は20週です。改善率は8割です。となると20週、約5ヶ月で8割の方が改善するわけです。
もちろんビオチン使ったりとかっていう方も中にはいらっしゃいますけど、早々にこれらはやめます。服薬はほとんどしておりません。塗布剤も何かステロイド塗るとかではなくて、ワセリンとかなどの保湿剤に止めています。

上咽頭の治療 + ミサトールリノローションを点鼻してということで治療していきますけれども、平均治療期間が20週で改善率は8割という風に報告させていただきました。

これを見てもですね、全然諦めなさいってことないんですね。今日の話題はこれでしたね。

一文字で大きな違いが生まれる

掌蹠膿疱症の治療を通して考えると「ら」と「せ」の違い、ということでした。
何が言いたいかっていうとこれなんです。

治らないと治せないとの違いなんですね。
一番初めに見た記事に出てきたドクターですね。治せないわけです、自分では。「難しいよ、諦めなさい」と言うくらいだから治せないんだけど、それを一般的な言葉として「諦めなさい」という風に言う。どういうことか、「治らない」という風に表現してるんです。これ「ら」と「せ」の違いですけど、ものすごく違うんですね。
「治せない」自分が治せないを、「治らない」すべての医者で治らない、すべての医療で治らない、という風に一般化して間違って伝えることがあるんです。ここに大きな間違いがあると思う。

教科書に書いてあることが全てではないし、教科書に載る前のこと、エビデンスが積み上がっていくこと、エビデンス、エビデンスって言いますけれどもどんなエビデンスもゼロから始まっているわけですから、エビデンスとなるまではゼロなわけです。でもきちんとしたエビデンスとなる前に治っている状態というのはいっぱいあるわけです。ですから教科書に治らない、難治性なんて書いてあるからと言って、それが正しいかどうかは全く分かりません。

ノーベル賞の学者さんも言ってるじゃないですか。今年ノーベル賞受賞された先生も仰ってましたね。教科書を疑った方が良い。確かにそうなんです。これは医者も同じ。教科書に治りにくい治らないという風に書いてあるからといってそれが本当かどうか分からない。

私はさっきも言ったように自分自身で治せない病気がたくさんありますから、治せない場合は「治せません」という風に言います。「治らない」という風には言いません。

もしかしたら自分以外のドクターだとか、あと数年したらすごい薬が開発されているかもしれないから、治らないかどうかわからない。
でも今は自分自身が治せないのはわかるわけですから、治せないという風に表現する。

ですから冒頭の記事に出てきたドクターも、治せない、自分には治せないと素直に頭を垂れればよかったわけです。それを「治らない。諦めろ」という風な言葉にするからおかしくなったわけですね。

ですからこれを聞いておられる方も、そのドクターが言ってることが、その人自身が治せないのを治らないと言っているのか、本当に治らない病気なのかというのは、分けて考えることがとっても重要だというふうに思っています。

今日は掌蹠膿疱症を通して考える、
「ら」と「せ」じゃ大違い

この「ら」と「せ」の違いとは、「治せない」「治らない」この違いを見極めてください。

少なくとも掌蹠膿疱症は治る病気ですから諦めないことです。

https://mirai-iryou.com/shinryo/bspot/ppp/

https://mirai-iryou.com/shinryo/bspot/

執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール

今井 一彰
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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