読売新聞医療ルネサンスの「のど、口から来る病」シリーズの最後である6回目は、旭川医科大学教授の原渕保明先生でした。
最後に大御所が登場といった感じです。原渕先生は、日本における病巣関連研究の第一人者でもあります。
そして、原渕教授には、日本病巣疾患研究会設立当時から顧問の立場でご意見を賜っております。
第4回総会・学術集会では「扁桃病巣疾患:その成因、病態、臨床像」と題して特別講演をお願いいたしました。
病巣感染症から病巣疾患へ
さて新聞記事の一部をここに載せてみます。
「扁桃へんとう 炎や歯周炎などによって腎臓や骨・関節、皮膚の病気が引き起こされるもので、『病巣疾患』と呼ばれています」
――発症の仕組みを教えてください。
「口の中には常に様々な細菌(常在菌)が存在し、外部の病原菌の侵入を防ぐ役割を担っています。この常在菌に本来、外敵を排除する免疫反応は働かないのですが、免疫反応が出てしまう人がいます。その結果、臓器を傷つける抗体やリンパ球などが放出され、血流にのって腎臓や骨・関節、皮膚などを傷めます」(読売新聞2018年7月10日朝刊より)
病巣疾患は、以前は病巣感染症と呼ばれていました。
私も学生時代にはこの言葉で習いました。
ところがいろいろ研究が進んで行くにつれ、「感染症」だけではなく「常在菌」に対する以上免疫や、ウイルス、汚染物質などの慢性炎症からもこれらの病態が引き起こされることが分かってきました。
この病巣感染症という言葉が世の中に広まっていった1900年代初頭は、ウイルスは見つかっていませんでした。
顕微鏡やレントゲンの発明などで医療が呪術的だったものから、近代的なものにドンドン移り変わっていった時代でもあります。
消毒法の発見により外科手術成績も大幅に改善しました。
そして、目には見えないけれど顕微鏡で見える小さな小さな生物が、人体に大きな影響をおよぼしていると考えられるようになりました。
そうして「病巣感染症」という言葉が誕生しました。
ところがペニシリンに代表される「抗生物質」の発見により「感染症は制圧できる」という楽観的考えが広まり、病巣感染症も廃れていきました。
いまとなってはこの考えは間違っていると誰もが知っているのですが、当時ペニシリンの投与により劇的な症状改善により命が助かった人が達がいたことを考えると「夢の薬」の登場は「感染症は人類の叡智により過去のものとなるだろう」と人々が思っても仕方がありません。
これらの書籍を読むとよく分かりますね。
その後、ペニシリン耐性菌や多剤耐性微生物などの登場やウイルスやマイコプラズマの発見などにより「感染症」の病態も様変わりしました。
さらに、「感染症によって引き起こされる」と考えられていた免疫異常が、常在菌(そこに住み着いているが感染は引き起こしていない)によっても引き起こされることなどが分かってきたことにより「病巣感染症」という用語が実際の病態に合わなくなってきました。
それにより「病巣疾患」「病巣関連疾患」と呼ばれるようになりました。
ですから、この新聞記事でも「病巣疾患」と表現されていますし、日本病巣疾患研究会の名称もそれに倣っています。
体の小さな慢性炎症が、遠隔の臓器に二次性の病気を引き起こす
という考えは、原因と結果が離れているために俄には信じられませんし、受け入れられません。
近年そのメカニズムが詳しく証明されてきていますから、これまで「原因不明」といわれていた病気が「治るもの」となってくる時代も近いですね。
病巣疾患や慢性上咽頭炎のことをさらに知りたい方は、上の書籍を参考になさって下さい。
また日本病巣疾患研究会では、学術総会の際に新聞記事に載られた原渕保明先生、永野千代子先生、田中亜矢樹先生、西田亙先生方の講演DVDも販売しております。ぜひこの機会に日本病巣疾患研究会へご入会下さい。
2018年8月25日午前中は市民公開講座(無料)
歯科医師の鈴木公子先生が「口の中から見えてくるもの」と題してお話しされます。
こちらは会員でなくてもご参加になれます。ぜひお運び下さい。
執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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