フランスの優勝で終わったロシアで開催されたワールドカップ。期間中は、寝不足だったという人も多かったのではないでしょうか。
もちろん私は、安定の早寝早起きでした(^^) こんな時に遅くまで起きていられる人をホント尊敬します。どうしても目を開けておくことができません。それはそれで問題ですね。
今回は、短期間でも睡眠不足は脳に悪いという私にエールを送ってくれるような論文が出たので紹介します。
それがこの論文です。
β-Amyloid accumulation in the human brain after one night of sleep deprivation
一晩徹夜した後の人の脳へのβアミロイドの蓄積
ちょー簡単にご紹介します。
睡眠不足は脳に老廃物をためてします
睡眠不足、睡眠時無呼吸症候群が高血圧や肥満、認知症などのリスクになると言うことは色々なところで紹介されるようになってきました。
どこかで聞いたこと、読んだことがある方も多いでしょう。
睡眠の大切さがこんなにも叫ばれるようになった時代はこれまでありませんでした。現代人は睡眠を削って生きている証拠なのでしょうか。
ところで、睡眠の質が悪くて高血圧、肥満などの病気になっているとしたらその治療はどうなるでしょうか?
原因を治療するとしたら、そうです睡眠の改善ですね。
ところが実際の治療となるとそれがすっぽり抜け落ちてしまって、高血圧治療イコール降圧薬投与となっていることがあります。
不良睡眠、睡眠負債によって高血圧になっているとしたら、漫然と降圧薬を飲み続けることはその場しのぎ(姑息的手段)の治療に過ぎません。
やっぱり長い目で人生を考えるとしたら根本治療をしたいものです。そのためにも生活習慣を見直すことが大切ですね。
私たちは生きていると体に色々な老廃物がたまっていきます。それを体外に排泄するのが、尿、便、汗などですね。さて、これがうまく排泄出来なくなったらどうなるでしょうか。
想像してみて下さい。
便秘が続いたとしたら腸が詰まるかも・・・尿が出せないとしたら腎不全になるかも・・・汗をかかなかったらすぐ熱中症になってしまうかも。
体も断捨離していかなきゃいけませんからね。もちろん心もそうです。そして脳も同じなんですね。
腸の便、腎臓の尿と同じように、脳の老廃物として代表的なものがβアミロイドや異常タウ蛋白と呼ばれるものです。
今回紹介した論文にも出てくるβアミロイドですが、タンパク質の一種で、炎症が起こるとゴミとして脳の中に貯まってしまうものだと想像して下さい。
脳の病気であるアルツハイマー病の方の脳にはこれがどんどん蓄積してしまって「老人斑」という何とも言えないネーミングの変化を起こします。
従来の研究では、脳の老廃物βアミロイドの蓄積は一時的な睡眠不足によるものは報告されておらず、この研究で「やっぱり一時的な睡眠不足も脳に悪い」ということが明らかになったのです。
今回の調査では20人の健康な人を対象に30時間も寝ずに過ごすという過酷な調査がなされました。
その結果、20人中19人にβアミロイドの蓄積が睡眠が正常な場合と比べて有意に増加したことがわかりました。
通常の睡眠と比べてβアミロイドがより多く蓄積した脳の場所としては、右視床と海馬でした。
図の矢印との所にHippocampusとありますが、これが海馬のこと。海馬と言えば記憶を司るところですからとても大切な部位ですね。さらに、これらの部位はアルツハイマー病でも初期の頃から病変が始まるところとしても知られています。
もちろん先行研究として慢性的な睡眠不足はβアミロイドを脳内に蓄積されていることが示されていたのですが、今回の研究によって一日の徹夜であっても脳内のβアミロイドは蓄積してしまうことが示されたのです。
やっぱり脳を健康に保つには、しっかりと寝ることは大切です。
脳内にβアミロイド蓄積が起こると言うことは、脳脊髄液の中にも当然βアミロイドが増えているということでね。ラットを使った研究でもこれらは示されており、短期間の睡眠不足でも脳脊髄液中のβアミロイドが増えてしまうことが示されています。
今回は、やはり人間でも同じことが起こっていることが確かめられたのです。受験や試験で一夜漬けなんてもってのほかですね。
グリンパティック系でβアミロイドを処理する
睡眠は大切。それは脳のゴミであるβアミロイドを貯めないためということにもつながるという論文を紹介しました。
では、脳の中のゴミはどうやって処理されているのでしょうか。
脳が働いている以上、老廃物は日々蓄積されていきます。
以前は、脳の中のグリア細胞などでその大半が処理されているのだろうと言われていましたが、現在では逆に、その大半が脳外に排出されてから処理されていることがわかってきました。
そこで登場したのがグリンパティック系と呼ばれる脳内のリンパ流です。
このグリンパティック系の発見により、首から上にはないとされていたリンパが何と脳の中に見つかったとあって大変驚かれました。
βアミロイドに代表される脳の老廃物は一日7g程度出てしまうと言われています。これがうまい具合に脳から出ていかなければドンドン貯まっていってしまうわけです。
これを何とかして防がねばなりません。睡眠を取るというのも大切だということでしたね。
ではナゼ睡眠を取ると脳の老廃物が排出されるのか。それに答えてくれるのがこのグリンパティック系です。
The Glymphatic System: A Beginner’s Guide.
グリンパティック系 ビギナーズガイド
このブログで紹介する図は、この論文から引用しました。ありがとうございます。
タイトルにはビギナーズガイドと書いてありますが、難しいです、、、、。どの分野のビギナーなんだろうと思います。脳の専門家でない私には充分難しかったです。
ここ数年で脳脊髄液の循環概念も随分変わりました。私が学生時代だった頃習った内容とは大きく違っています。
これらについて日本語で記述している文章は少ないため、医師でも知っている人はまだ多くないでしょう。
では、このビギナーズガイドの図を載せてみますね。
下の図の赤く太いのが動脈、青い波線が脳脊髄液(CSF)です。実は、脳は他の臓器ときちっと分けられていて、それを血液脳関門と呼びます。
いろんな物質が勝手に脳内に入っていくことを阻止しているのですね。その主役をになうのがグリア細胞の一種であるアストロサイトです。
アストロサイトは、ただニューロンを支えるだけのものといわれてきましたが、近年ではそれらの学説が否定されてきています。
このグリンパティック系でもアストロサイトが重要な役割を担っており、動脈とアストロサイトの間隙を通ってきた脳脊髄液を脳内にしみ出させる役目を担っています。
この脳脊髄液がリンパ液の役目も果たして脳の中のゴミを回収して、静脈系から回収されて頚部のリンパ管へと戻っていくのです。
そしてこの脳脊髄液の循環を促すのが、呼吸や血管の拍動、咀嚼などの筋肉運動などなのです。脳自体は動くこともせず、水に浮かぶ豆腐のようなものですから、水の循環が良くなるように何かの方法をとらねばならないわけです。
グリア細胞の新知見を教えてくれるのがこの書籍です。グリア細胞がこんなにも大切な働きをしているとは思いもしませんでした。
では、なぜ睡眠不足は老廃物であるβアミロイドが貯まるか。
それは、このアストロサイトと動脈の間隙が寝る時に大きくなり、それに従い排出も多くなるからと考えられています。
起きている時よりもグリア細胞が縮むことによりこれらの空間は60%程度も拡大するといわれています。
脳脊髄液の量が増えて効率よく寝ている時に老廃物を脳の外へ運び出すことができる。
だから寝ることが大切なんですね。
下図は若年者、高齢者、そしてアルツハイマー病の人の脳内の模式図です。
赤色動脈、水色リンパ液・リンパ管、青色静脈です。
紫色のウニョウニョ手を出しているのがアストロサイトでニューロンを支えたり血管表面を覆っていたりします。
緑のナメクジみたいなのがニューロン。黄色の棒がβアミロイド、紫の棒が代謝産物でどっちも脳の中のゴミ。
アクアポリンに関しては割愛。
Aのヤングは脳脊髄液が動脈から静脈へ一直線!脳の中の老廃物も少ないですね。
Bの高齢者はちょっと老廃物がたまってしまっています。
Cのアルツハイマー病になると脳の中が老廃物でいっぱい。リンパ管のなかにもたくさんのゴミが詰まっていて、それらを排出する静脈にはゴミが余り流れて行っていません。
これはイラストといってもなかなか怖い図です。
このグリンパティック系ですが、日経サイエンス誌で特集を組まれたことがあります。その記事だけを買うこともできますからご興味のある方はどうぞ。
舌を鍛える三浦雄一郎さん
いやはや、これだけ脳に老廃物がたまるのであれば、何とかして脳の外へ出したいものです。
そのためにまずは何度も書いてきたように睡眠。
でもちょっと待って下さい。睡眠が大切なんて誰でも分かっていることですが、仕事や子育て、災害、ワールドカップなどで徹夜に近い状態にならざるを得ない人もいるわけです。それって危険。脳にゴミがドンドンたまってしまいます。
でも、仕事であれば仕方ないところです。
仕事しないこと、なんて選択枝は難しいですよね。週末の寝だめもあまり良くないといわれています。
昼寝を推奨される時もありますが、なかなか職場によっては難しい。本当に睡眠時間確保は大変です。
さて、ではどうしようか。脳の老廃物をどうやって出していこうか・・・
慢性的睡眠不足の自分でもどうにかして脳リンパの流れを良くしたいと思うのは当たり前ですね。
私は、これに対する一つの答えが舌では無いかと思うのです。
2018年5月札幌にて口腔衛生学会で講演したときに、同学会の市民公開講座の演者がが三浦雄一郎さんでした。
日程の関係で私は拝聴することができませんでしたが、お父さんの三浦敬三さん譲りのベロ出し体操を毎日続けていらっしゃるとのことだったようです。
そして舌を動かせば認知症のリスクも低くなるともおっしゃているとか。
お父さんの三浦敬三さんが毎日ベロ出し体操をしていると言うことは、私があいうべ体操をやりだした後に知ることとなりました。
この書籍の中に、85歳から風邪予防のために一日に100-150回ベロを出し入れ、動かしていると書いてありました(多分)。
ほぅ、さすがだな!と感心して拝読しました。やっぱり健康を考えていくと舌を健康に保つことが大切なんだと改めて思ったものです。
では、皆さま連続で10回口の中から外へ舌を出し入れしてみて下さい。思い切りやってみてください。
結構疲れることが分かりますね。
この舌を動かすことの大切さについて「脳を鍛えるなら、舌を鍛えなさい2」で書いていこうと思います。
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私の書籍一覧です。ぜひお買い求め下さい。
2018年7月発売のゆびのば姿勢学もどうぞよろしくお願いします。
https://mirai-iryou.com/aiube/
執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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