4月にコロナ後遺症治療に関して論文にて報告し採択されました。
コロナ後遺症治療に関して、まとまった症例での報告は初めてではないかと思います。
“コロナ後遺症” 福岡でも相談が急増 どんな症状が? 専門家「周囲の理解と支えが必要」(2022年8月22日TNC西日本放送にて放映)
「新たなコロナ後遺症治療法としての上咽頭擦過治療」というタイトルです。
新型コロナウイルス罹患後2ヶ月以上経過してもなお症状が残存する58名の患者さん(平均年齢38.4歳)を対象に上咽頭擦過治療(EAT)を行ったところ、
倦怠感 ( 65 → 23)
頭痛 (49 → 11)
集中力低下 (52 → 23)
と有意に低下しました(数値はVASによる患者自己評価スケール)。
もちろんその他の症状についても経過を追っていますが、すべての項目について有意差を持って改善しました。
睡眠状態、体痛・関節痛・記憶力については下記のグラフを参考にして下さい。
治療回数は週に一回とし、初回と1ヶ月後に内視鏡での評価をします。出血量と内視鏡所見で上咽頭炎の重症度をスコア化し評価しましたが、他覚的所見も自覚症状と同様有意差を持って改善しています。
初診時は重症が25例(43%)あったものが8例(14%)に低下しました。すべてのケースにおいて上咽頭炎の改善を認めました。
ではなぜ上咽頭炎の改善で症状の改善が起こるのでしょうか。
もちろん炎症が減ったからではありますが、その証拠となる論文が今回採択されたので、併せて説明します。私も共著で参加させていただきました。
EATは主要な炎症誘発サイトカインであるIL-6のmRNA発現を抑制する
IL-6はインターロイキン6のことで、インターロイキンとは細胞間の情報伝達タンパク質(サイトカイン)の一種で特に炎症に関係するものです。さまざまな炎症性疾患で上昇し、関節リウマチ治療で使われるトリシズマブ(アクテムラ®)という薬剤はIL-6をブロックすることにより治療効果を示します。
このIL-6を生み出すmRNAを抑制する力がEATにあることがわかりました。
よって、上咽頭を治療することによって局所から産生されるIL-6が減少するため様々な治癒効果が得られるのだと考えられます。逆に捉えると、慢性上咽頭炎の多彩な臨床症状はIL-6やTNFαといった炎症性サイトカインが放出されることにより生じるとも言えます(ただしそれ以外の自律神経機序、自己免疫学的機序も存在します)。
今回の論文では、上咽頭に存在する免疫担当細胞をそれぞれマークし、それらに発現しているmRNAを染色しています。
これらがEATをすることによりIL-6発現が有意に抑えられました。反対にEAT未試行群では抑制されませんでした。
これらの結果からEATによりIL-6が減少しそれが炎症の沈静化を起こしていると考えられます。
新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどは、上咽頭で侵入、増殖します。PCR検査の時にスワブ(綿棒)で擦るのが乗員頭部であることからも容易に想像できるでしょう。
コロナ後遺症では、ウイルスが存在しないにもかかわらず、一度起こってしまった炎症のサイクルを食い止めることができずに慢性炎症として持続しているのでしょう。遅発性にコロナ後遺症が起こってくるケースがあることもこれで理解できます。
この炎症を鎮めるには、同部の上皮を除去するという物理的手段が必要になります(薬剤治療ではまだ効果を示せていません)。ここには炎症により血管、リンパ管増生が起こり、血流障害、リンパ微小循環障害を引き起こし、さらなる炎症へと連なっていってしまいます。
コロナ後遺症の治療手段としてEATを発信してきましたが、この論文によりさらなる理論的裏付けができました。
コロナ後遺症のみならず悩んでいる方々の一助になれば幸いです。
執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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