唾液を出すことを知って口臭が減った
口臭を気になる人も多い。電車の中の自身か発せられる匂いにまったく無頓着な人もいるけど、些細な香りに敏感な人もいる。難しいものですね。
今回は、口臭で悩んで外来受診してる方のお話し。
外来で幾度となく「口臭なんてしませんよ」とお伝えしても
「電車で私が座ったとたんに顔を反対側に背けられた」
とか
「同僚と話しているとすぐ口元に手が行き鼻を隠される」
と言っていたYさん。
初診の時から口臭は認めませんでしたが、本人はかなり気になるご様子。
唾液の検査などをしても悪いところは無い、と言うよりかなりご本人はオーラルケア(口腔内清掃)に気を付けているのでむしろ唾液状態は優秀。
口腔内が口臭の発生源となる以外にも、慢性上咽頭炎や慢性扁桃炎、副鼻腔炎なども口臭の原因になることがあります。Yさんの場合はEAT(上咽頭擦過治療、Bスポット)により慢性上咽頭炎は改善してきていましたから、鼻疾患からの口臭ということ(もちろん最初から無かったのですが)考えられません。
それでも「口臭がひどい」と受診の度に訴えます。
ここまでとなると自己臭症(自臭症)と診断されるかも知れません。
この口臭ですが自分で確かめようが無いからやっかいなのですが、最近では口臭測定器で簡単に履かれるようなものが出てきてから気にする人が増えました。
Yさんにも受診の度に、私とK女史(相田歯科・耳鼻科)で上に書いたように「口臭ありませんよ」伝えるのですが、Yさんはあまり納得した風もありませんでした。
そんなことが数回続いたある外来の日、いつもとは違う和やかな表情でYさんが診察室に入ってきました。
唾液腺マッサージを知った
と唾液や唾液腺マッサージの説明をしてくれました。
唾液は唾液腺から出る
唾液は唾液腺から分泌されるのですが、唾液腺には大きく分けて大小二つあります。
大唾液腺と小唾液腺です。
普通、唾液腺といってイメージするのは大唾液腺です。
大唾液腺には、耳下腺、顎下腺、舌下腺の三つがあります。
唾液腺の神経支配の特徴は、交感神経・副交感神経どちらが働いても唾液が出る、というところです。
普通は、交感神経・副交感神経という自律神経はバランスをとっていてどちらかが優勢になると一方が劣勢になるのですが、こと唾液腺に関しては交感神経でも副交感神経でも唾液分泌が増えます(唾液の質が違いますが)。
上の図は、大唾液腺の図です。耳の下にあるのが耳下腺、おたふくかぜで腫れます。おたふくかぜは流行性「耳下腺炎」といいますね。
ここはさらりとした唾液がでます。
そして、舌下腺、顎下腺と下あごの先に場所が移るにつれ、すこしどろっとした唾液が出てきます。
顎下腺はある程度どろっとした唾液が出るので唾液が固まった唾石が詰まってしまって唾石症になりやすいです。
反対にさらりとした唾液が出る耳下腺は唾石症になりにくいです。
これらの唾液腺から食事や噛むこと、情動の変化などによって唾液が分泌されます。
上の図は、このTJムック「口呼吸を止めて万病を治す!口テープ付録付き」からの抜粋です。
唾液を増やす唾液腺マッサージ
唾液腺には、唾液が貯まっており食事などのいろんな刺激にすぐ対処できるようになっています。
下あごの骨を耳の下から親指、人差し指、中指の三本で挟み込むようにして顎まで滑らせると唾液が「じゅるっ」と出るのが分かります(顔の皮膚、表面側から挟んで下さい)。
これが唾液腺マッサージ。
災害時や口の中が乾燥したときなどにやると効果的。
唾液の働きとして代表的なものは
- 感染症を防ぐ
- 虫歯を予防する
- 食べ物の消化を助ける
この三つがあげられるでしょう。
唾液の中にはリゾチームやラクトフェリン、最近ではディフェンシンといった外来異物をやっつける成分が含まれています。
また歯を酸性にして溶かして虫歯を作るミュータンス菌(虫歯菌)に対して、唾液が酸性度合いを中和して虫歯になりにくい口の中の環境を作ります。
またアミラーゼという酵素によってデンプンを麦芽糖に変えます。食事を唾液と混ぜ合わせることによって嚥下(飲み込み)のしやすさにも役立ちます。
スゴいぞ唾液!
口呼吸になるとこの素晴らしい唾液を乾かしてしまうのですから、これらの反対のことが起こるのが分かりますね。
だからこそ口呼吸は身体に悪いんです。
口が渇くと口臭はひどくなる
口臭の原因は様々です。
歯周病やドライマウスなど口腔内の病気もあれば、慢性扁桃炎や慢性副鼻腔炎などの鼻の病気、さらには胃腸疾患、慢性肝炎、腎不全などの全身の病気から起こる場合もあります。
それらのちりょうも大切なのはもちろんですが、同時に口の中を唾液で潤して悪玉菌を増やさないような状態に保つことも大切です。
上に書いたように唾液の中には、様々な抗菌物質の他にも、ムチンやヒアルロン酸といった保湿成分も存在しています。
白血球などの免疫細胞は、乾いた状態では存在できません。潤っていることがとても大切なのです。
口呼吸では、口の中はドンドン乾いていきます。
そして、そこに現在ある炎症を悪化させ、粘膜を肥厚させてしまうことも分かっています。
ドライアイやドライノーズというように、粘膜が乾くと様々な問題が体に起こります。
同じようにドライマウス(口呼吸による人為的な)の状態を避けるべきです。
乾いてしまっては、炎症が進行することによりさらに口臭がひどくなってしまう恐れがあります。
あいうべ体操で唾液が増える
Yさんが教えてくれた。
と言われました。
医師にとっては当たり前の事でも、患者さんにとってはまったく当たり前の事じゃ無かったと改めて反省。
さてYさん、たとえ口臭測定器で悪い値が出ても、唾液腺マッサージをするとその場で悪い数値が改善されることを発見してから、気持ちはとても楽になったとのことでした。
Yさんの表情改善にはこの体験があったのですね。納得!
あいうべ体操を半年間継続した研究によると半年後は、開始直後からすると統計学的に有意差を持って唾液が増えることがわかっています。
短期的に唾液を出すには唾液腺マッサージや舌の出し入れで、そして長期的に唾液分泌を向上させるにはあいうべ体操が良いですね。
K女史と二人でいつも、「どうやったらYさんに口臭が無いですよ」とわかってもらえるかなあと頭を捻っていましたが、ご本人がその対処方法を知ることによって改善しました。
薬や注射だけが治療じゃ無くて、やっぱり「セルフケア」ですね(^^)
執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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