言葉を磨くのはこれからの時代必須です。
私、院長である今井の今年2021の大きなテーマは「言葉を磨く」です。
これまであいうべ体操やゆびのば体操、そして昨年は「ゆるHIIT」と比較的簡単に取り組める体操、運動をお伝えしてきました。これら三つを眺めているとあることに気がつきます。そうです、”無料”ということ、つまりタダで実践できるのです。あいうべ体操は言うまでもなく、ゆびのば体操もその場で老若男女することができます。HIIT(高強度インターバルトレーニング)も、youtubeを見れる環境があればすぐに実践できますし、無ければ時計一つあればできます。
できるだけ道具を使わず、どこでもできる手軽さを追い求めてきたのがみらいクリニックの健康法の歴史です。これにこの度”言葉の力”が加わります。
もちろん従来からも言葉は”薬にも刃物にもなる”とも言われてきましたから、その大切さについて異を唱える人はいないでしょう。私も文章も書きますし講演もします、言葉の力を持っていなければ物事を伝えられないことを少しは知っているつもりです。
2020年は、医師としてさらに言葉の力を磨こうと「ペップトーク」を学び、医師としてはじめてペップトーク協会認定講師となりました。2021は、言葉の力をさらに医療の世界まで浸透させ、よりよい患者医療者関係作りに寄与していきたいと思っています。
今回のブログは、4月18日(日)に開催されるメディカルペップトークセミナーの紹介です。
ヨミドクターの記事をベースに、記事中では書けなかったことを記し、言葉掛けの裏付けとなる資料を提示します。
エビデンスを持った言葉の力を知りたいという方に読んでいただけるとありがたいです、そして是非ともセミナーにご参加下さい。
※ペップトーク協会のセミナー(セルフ・ゴール)に三回していない方でも受講できますが、参加された方がより理解が深まります。
※セミナー事前動画でもペップトークについての説明をします。事前に書籍等で勉強されるのをお勧めします。
ペップトーク4つのサイクル
ペップトークは、図のように4つのステップから成り立っています。
- 需要(事実の受け入れ)
- 承認(とらえ方承認)
- 行動(してほしい変換)
- 激励(背中の一押し)
そのそれぞれに具体的なやり方と裏付けとなる理論があります。具体的なやり方は従来のペップトークセミナーでしっかりと習得できます。今回のセミナーは、その裏付けとなる理論を様々な分野の文献を網羅し(医療分野が多いですが)、考察を加えてレクチャーするというものです。
ペップトークとは
ヨミドクターペップトーク「「よくなる」「できる」…自分への言葉かけで体が変わる 炭治郎もやってるペップトーク」を書きました。
ペップトークとは、「試験や試合など本番に向かうときにかける短くて前向きの勇気づけの言葉」です。
映画やドラマでもコーチや監督が選手達を励ましたり、元気づけたりする場面を見たことがある人もいるでしょう。
こちらの動画をご覧いただくとイメージしやすいと思います。
檄を飛ばしている監督は、闇雲に前向きな言葉だけを大声で叫んでいるのではなく、色々な心配りをしながら言葉を選んでいます。試合前に10分も20分も話を出来るわけもありません。限られた時間内で勝利に向かって選手達を鼓舞してフィールドへ送り出す言葉を紡ぎ出さなければなりません。そのための技術がペップトークなのです。
翻って診療室の風景を覗いてみると・・・患者さんに対して“長ったらしく”、“分かりにくい専門用語で”、”人のやる気を削ぐ“ような言葉がけをしていないでしょうか。はたまた、スタッフ同士の会話の中に潜んでいないでしょうか
ペップとは、やる気とか活気という意味、それを駆使して他人や自分に元気を与える,勇気づけをするのがペップトーク、今回はメディカルペップトークと銘打って、特に医療現場におけるペップトークの活用法を学んでいきます。
考えてみると私たちの周りでもこのようなやりとりをする場面は少なくありません。
- 新入社員、新人への言葉がけ
- 受験生への激励
- 新たな治療を導入される患者への説明
- 子どものピアノの発表会
などなど枚挙にいとまがありません。
知らず知らずのうちに使っている言葉ですが、それらを意識して使えるようになったら生活にどの様な変化が起るでしょうか。
記事中でも紹介した研究を再度紹介しましょう。これはカラオケを熱唱する前に、自分で自分に
と言ってから歌い始めたものです。グラフの縦軸は、音程の正確さを示すカラオケスコアが%で示されています。
なんと「盛り上がっている(I am excited)」と最初に言ってからだと他の動作を引き離して81%の正確率をたたき出しています。次に無言で始めた時、そして一番悪いのが「不安だ( I am anxious)」といって始めたものだったのです。
最初に宣言した言葉にその後の動作が引きずられてしまうことがよく分かる研究です。
カラオケの点数ならまだいいでしょう、これが人の健康に関わっているとしたら・・・
次に別の研究を紹介しましょう。大学生を使った実験です。テスト期間中に尿中アドレナリンを測定しました。
半分の学生グループは、自己肯定感が上がるような自己宣誓(self-affirmation)をさせ、他のグループにはさせません。
そうすると、ストレスがかかったときにも尿中アドレナリンの量は増えなかったのです。
つまりストレスをストレスと感じずに平常心で臨むことができたのです。
これ以外にもさまざまに言葉による自分への働きかけによって心身が変わる事が示されています。
今回のセミナーでは、たくさんの論文によるエビデンスを紹介しながら学ぶことができます。
医療者の言葉の影響力は大きい
病気になったときには、患者さんはもちろんですが、ご家族、関係者など周囲の方々も大変な不安、ストレスに襲われるものです。
その際に医療者からかけられる言葉というのは、平静なときであれば聞き流せたり、ショックを受けなかったりするものであったとしても、些細な表現や言葉尻が気になるものです。
まさに「言葉は薬にも毒にもなる」です。
薬になる言葉をプラセボワード(Placebo word)といいます、反対に毒になる言葉をノセボワード(Nosebo word)といいます。ノセボは、プラセボの反対。医薬品の治験の際にこのプラセボという言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。元々は「喜ばせるもの」という意味で、治験の際には”偽薬”の意味で使われます。
効果を確かめたい本当の薬に対して、効果がないニセ薬を使います。そして、プラセボと比べて実薬がどれくらい効果に優れているのかを試します。
優れた薬であれば、プラセボは効かずに、実薬が効果を示すのですが、そうでない場合もあります。胃腸の機能に関する薬などはプラセボでも3,4割の人が効く場合があります。
人間の”効くかもしれない”という気持ちがそうさせるのですね、いわゆる自然治癒力。
残念なことに逆の効果もあります。副作用についてです。
「この薬は○○、××、△△といった副作用が稀ではありますが出現する場合があります」
と説明されると、その副作用が出る人が出てきます。これがノセボ効果です。薬のしっかりとした説明のためには必要なのですが、これにより調子を崩す人が出てくるからヒトの体は一筋縄ではいきません。
実際に言葉の持つ影響力を示した研究もあります。腰椎麻酔をする際の声掛けです。
さてこの二つの言葉を治療台に横たわって、背中側から何をされているか分からず医者から声をかけられた場面を想像してみて下さい。
実験結果を見るまでもなく、分かりますよね。そうです、前者のように声をかけられた方が、痛みの感じ方は少ないのです。
同じ手技をやっているにもかかわらず、言葉掛けによって変わるのです。
これらの事を知ってヒトとコミュニケーションを取るのか、知らずにやってしまうのかの違いは大きくなります。
医療現場に取り入れるメリット
コロナ禍で昼夜問わず最前線で仕事に従事している医療者が世界中にいます。
彼ら彼女らの精神的、肉体的負担たるや想像を絶するものに違いありません。昨年、聖路加病院で医療者の燃え尽き症候群(バーンアウト)が3割を超えるというニュースもありました。しかもバーンアウト群は若く、勤務経験が浅いということも分かりました。また医師と比べてバーンアウト率看護師は約5倍、検査技師はなんと16倍とありました。
その人達がそのまま医療現場を去って行くとしたらこれは大きな損失です。
私はメディカルペップトークを医療現場に取り入れると大きなメリットがあると考えています。人間関係による離職率の高さも考えるとコミュニケーションをいかにうまく取ることが出来るのかは医療技術と同じように大切な技術です。
- 医師患者関係の改善
- スタッフ関係の改善
- 外来時間、診療時間の短縮
- 治療成績の向上
などです。スタッフのやる気に火を付ける、治療抵抗性のあるクライアントへスムーズに治療へ誘導する、苦痛のない診療を提供するといった事がメディカルペップトークで行えるようになります。
みらいクリニックでも、2019年から本格的にスタッフのペップトークを取り入れてスタッフ定着率の向上、患者医療者関係の向上を実感しています。
言葉を操れる力を身につけよう
この言葉の持つ影響力をここで示した文献以外にも豊富なエビデンスを持ってお伝えするのが今回の「メディカルペップトークセミナー」です。これは私のセミナー用のマインドマップの一コマです。ペップトークに関する論文はもちろん、精神心理学、脳神経学分野からさまざまな文献を蒐集しました。
これまでもNLPやコーチングなど様々な手法を学んできましたが、取りかかりが容易で奥が深いのがこのペップトークです。セミナーの内容は、いわゆる自己啓発的なものとかぶるところもあるでしょうが、子どもでも、初学者でもすぐに始められるのがペップトークの素晴らしいところだと捉えています。
今回ペップトーク協会の岩崎由純代表理事をお迎えして、午前中は岩崎先生のペップトーク講演そして午後からは私のエビデンスに基づいた初めてのメディカルペップトークセミナー。
あまりにも伝えたい内容が多すぎて、一日では終われません。そのため、受講者の方には、事前学習動画を配布して当日はできるだけ効率よく、メディカルペップトークを学べるようにしていきます。
メディカルと名付けていますが、その裾野はとても広いのも特長です。
- 医療、介護、リハビリ現場
- 養護教諭など教育現場において
- スポーツなどの栄養指導
- 自分自身の闘病・鍛錬のため
心身に関わることをメディカルとするならばもっともっと多くの場面が想定されます。
ぜひこの機会にメディカルペップトークを学んでみませんか。今回は、岩崎先生の午前中の講演は無料のyoutube配信(リアル会場とのハイブリッド)ですが、午後のメディカルペップトークセミナーはリアル会場のみの開催です(オンライン受講はありません)。そのため数が限られますのでご了承下さい。
執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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