今回のブログは点鼻用のウメエキスであるミサトールリノローションについて(仮説の入り交じった)解説をお届けします。
ミサトールリノローションは、みらいクリニックでは慢性上咽頭炎治療の補助として用いています。特にアトピー性皮膚炎や掌蹠膿疱症、慢性じんま疹といった皮膚疾患の時には第一選択としています。
ミサトールリノローションをご存じない方はまずこちらをごらん下さい。
ミサトール(研究の際にはMK615というネーミング、実際に論文検索に有用なグーグルスカラーでは「MK615,Ume」というキーワードで検索すると論文が出てきます)は、梅肉の抽出成分ですが、ウメは漢方薬にも使用されていますから、昔の人も当然その薬効を知っていたのでしょう。
漢方医療ではウメの実を燻蒸したものをウバイ(烏梅)といい、その名も烏梅圓という漢方薬もあります。
実は私、以前「蛋白漏出性腸症に対する烏梅圓の使用経験とその方意について」と題して東洋医学会雑誌に投稿したことがあるのでした(^^;
もう2002年のことなんですね、遠い目・・・。ウバイは下痢止めや虫下しとして使われているんです。
さぁ、ではそのウメがどんな風に体に影響を与えるのでしょうか。
ミサトールは抗炎症効果がある
ウメはもちろん植物なのですが、植物の身体に良い成分というとポリフェノールとかフラボノイド、カテキンとかってのを思い出す人も多いと思います。
ウメは、トリテルペノイドという化合物の一つであるオレアノール酸やウルソール酸が含まれており、これから炎症物質(サイトカイン)であるTNF-α(腫瘍壊死因子-アルファ)やIL-6(インターロイキン6)を抑えるとされています。
これまでミサトールは様々な研究が成されており
- 抗腫瘍効果
- 抗炎症効果
- 肝庇護作用
が報告されています。ただしこれらはミサトール(口から入れるもの)であって今回のミサトールリノローションの直接的な作用ではないことに留意して下さい。
使いやすくなったミサトールリノローション
パッケージも溶解して点鼻するキットも一新されました。とてもコンパクトになり扱いやすくなりました。
そして何よりさらに安価になりました!ありがたいm(__)m
ミサトールは口内細菌についてもその増殖を抑えるという報告もあります。
MK615: A new therapeutic approach for the treatment of oral disease(口腔ケアに対する新しい治療的アプローチ:MK615(ミサトール)
Medical Hypotheses Volume 77, Issue 2, August 2011, Pages 258-260
ミサトールの新たな効果が報告される
今回、ミサトールの効果についてJFIR(認定NPO日本病巣疾患研究会)会員の西憲祐(福岡歯科大学耳鼻科2020年現在)先生がとても興味深い論文を発表されました。
Anticancer Research August 2020 vol. 40 no. 8 4687-4694
リンク先では抄録しか読めませんが、今回全文を入手できましたので、ごくごく簡単にご紹介します。
タイトルを約すと「変異KRASを持つ直腸がんにおいて、MK615(ミサトール)はEカドヘリンを増加させることによって低酸素耐性を抑制する」となりますね。まぁ初見では何のことかサッパリ分からないという人も多いでしょうから説明します。
KRASは細胞を増加させるタンパク質、がん細胞は無秩序に細胞増殖を起こしていきますからKRASが増えないように調節されていますが、KRAS遺伝子に異常が起こると(これが変異KRAS)かってに細胞増殖を始めてしまいます。
そしてEカドヘリン、カドヘリンとは細胞同士をくっつけておく物質です。ノリみたいなものではなく、細胞の種類によってカドヘリンにもいくつか種類があります。そうじゃないといろんな場所の細胞がペタペタくっつくことになりますからね。このカドヘリンが減ってしまうと細胞同士をくっつけておけないので、がん細胞だと転移なんてことが生じるわけです。
そして細胞がたくさんくっつき合うと低酸素状態が生じます。血管がありませんからね。そこでHIF-1(低酸素誘導因子)というノーベル賞もとった物質を出して「酸素が少ないからちょっとこっちに血管回して~(^∧^)」なんて情報を出すわけです。
今回の西先生の論文は、試験管内でのがん細胞の振る舞いをしらべたのですが、3Dでの広がりを見ています。これまではシャーレに平面上に広がったがん細胞の観察をしていましたが、これが3次元的になりより生体に近くなったと言うことです。
で、結論としてはミサトールはがん細胞の広がりを押さえることが出来るんだけど、それはEカドヘリンを増やして(細胞同士の接着を高める)、HIF-1を減少させて(低酸素に弱くなる、栄養、酸素を送り込んでくれる血管が生まれない)、がん細胞の増殖を抑えられるというわけです。
※再度書きますが、点鼻用のリノローションではなく、口から摂取するミサトールのことですのでご注意下さい。
これは論文内の図ですが、A×Bでがん細胞集団の大きさを比較しています。ミサトールを加えた方は、縦が潰れています(A)。容積が小さくなったと言うことですね。その他この論文にはHIF-1の減少やカドヘリンの増加が示されています。
とここまで読んできて、ミサトールリノローションがどうして慢性上咽頭炎に効果をおよぼすのかについて仮説を考えてみました(仮説と言うより妄想かも知れませんが、話半分に聞いて下さい)。
私が連載している読売新聞のwebサイト、ヨミドクターでこんな記事を書きました。
汚れた空気も慢性上咽頭炎の原因 鼻うがいで汚染物質を除去
慢性上咽頭炎は、CRP(C反応性タンパク)では重症、軽症を判断できないどころか、慢性上咽頭炎があるかどうかも判別できません。慢性上咽頭炎でCRPがすこしでも上昇していれば重症の部類に入ります。
通常は、CRPは基準値以下に収まります。
ではなぜ炎症が起きるのかというと、空気が乱流を起こしてさまざまな物質が付着しやすい上咽頭部は、いろんなダメージを受けます。
細胞同士の繋がりタイトジャンクションが壊されてしまって、花粉などの物質が細胞の隙間に入り込み炎症を起こします。ですから、鼻うがいなどの洗浄は慢性上咽頭炎においてとても有用なのですね。
ところで、タイトジャンクションも細胞どうしのつながりです。上ではカドヘリンという物質が出てきましたが、こちらは別の物質でクローディンがその役割を担っています。
私の下手な図で示します。
細胞は、カドヘリンとクローディン、二つの繋がりを持っているわけです。それで、大気汚染などで破壊されるのがクローディンが担っているタイトジャンクションです。
そして、どうも大気汚染物質は、カドヘリンも障害しているようなんです。いくつかそれらしい文献もあります。またカドヘリンもタイトジャンクション(アドヘレンスジャンクションと呼ばれます)の一つとして働いています。
となるとミサトールリは、カドヘリンを増やすのであれば、直接ミサトールリノローションは上咽頭上皮細胞に降りかかるわけですから、実験室と似たような状況になります。
通常は、薬やサプリ、食事だと腸を介して、注射だと血液、血管を介してその物質が作用を期待される臓器に向かいますが、ミサトールリノローションは直接振り返る(しつこいな)。とするとカドヘリンを増加させ、弱った、破壊されたタイトジャンクションを修復している可能性がありますね。
ただし、あくまでも私の仮説ですからご注意下さい。でも、あたらな研究が生み出される可能性があります。
より効果的に使おうと思えば、鼻うがい、上咽頭洗浄をして鼻汁や汚れを除去した状態でミサトールリノローションを点鼻するのがよいですね。
もしミサトールリノローションを使ってみようかなと言う方がいらっしゃったらこちらから。
いまお使いのミサトールリノローションの理解の一助になれば幸いです。
執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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