掌蹠膿疱症とは手のひらや足の裏に小さな水ぶくれができて、かさぶたになったりすることが繰り返される病気です。
掌蹠膿疱症の罹病期間は10年とか20年以上など長期にわたることもある皮膚の慢性病です。
治療は、ビタミンD3軟膏やステロイド剤を塗布したり、ビオチンやビタミンCを内服したりしますが、効果がない場合はステロイド剤(副腎皮質ホルモン)を処方されることもあります。
みらいクリニックでは、できるだけ薬を使わずに掌蹠膿疱症などの皮膚病治療を行うようにしています。
目次
本当に金属アレルギーが原因ですか?
今回のブログは、掌蹠膿疱症ですぐにした方が良いのかどうかと言うお話しです。ただ掌蹠膿疱症にかかわらず、その他の疾患(例えばSAPHO症候群※注1や胸肋鎖骨過形成症)でも「金属アレルギー」とか「パッチテストで陽性」と言われたことのある人もぜひ読んでください。
私は掌蹠膿疱症治療の際には、皮膚や鼻、咽頭だけでなくもちろん口の中の状態を見るのですが、すでに歯科金属除去をしてきている患者さんを時々見かけます。
これには理由がありますね。掌蹠膿疱症イコール歯科金属が原因となる人が多いし、ネット上で検索してもそのような情報があふれていますからね。
ケースによっては金属除去を患者さんが希望するか、歯科医師が勧めるかですね。
ところが歯科金属を除去(いわゆるノンメタルにするといいます)しても掌蹠膿疱症の症状が続いてしまうことが多数あります。
これはどういうことでしょうか。
実は、歯科金属が掌蹠膿疱症に対して与える悪影響はそれほど多くないのではないかと思っていたところ(みらクリの臨床経験だと1割以下程度しか関係してない)この様な論文が出ました。
Retrospective analysis of the clinical response of palmoplantar pustulosis after dental infection control and dental metal removal.
J Dermatol. 2017 Jun;44(6):695-698
歯性病巣感染コントロールおよび歯科金属除去後の掌蹠膿疱症の臨床反応に対する後ろ向き解析(東京歯科大石川総合病院皮膚科)
retrospective analysis(後ろ向き解析)というのは、疫学調査方法の一つで、現在から過去にさかのぼって原因や影響を与えた事象に関して調査することです。
さらに歯科金属除去は分かりますが、歯性病巣感染とはなんでしょうか。
こちらの記事も参考になさって下さい
まず口の中の金属について考えていきましょう。
歯科治療で使う金属は、いろいろな金属を組み合わせた合金を使用します。またレジンやセラミック(ポーセレン)などの非金属物質を使うこともあります。
また金属とセラミックを合わせたり、人工ダイヤのジルコニアを使ったりすることもあります。
まるで口の中は貴金属店ですね(^^)
この方のように口腔内に金属が沢山入っているのを見ると、何だか身体に悪そうだなあと感じるのは私だけでは無いはずです。
かくいう私の口の中にもたくさんの歯科金属が入っていますから、やっぱり気になりますよね。
この歯科金属に対してアレルギーを起こしてしまうので掌蹠膿疱症が発症してしまうと言うのが金属除去治療の根拠となります。
みらいクリニックにも、金属パッチテストの結果を持参する方がいらっしゃいます。
それでもなお、まず病巣検索をするべきだと思います。その理由をこれからご説明します。
歯性病巣感染とは
上の論文で出てきた歯性病巣感染とは何でしょうね。
歯性病巣感染というのは、口腔内特に歯周組織に起こる感染症(辺縁性歯周炎や根尖性歯周炎などが代表的です)により、口の中ではなくその他の臓器に別の病気を引き起こしてしまうと言う代物。このときに口腔内の病気を「原病巣」といいます。
また炎症は口の中だけじゃなく、歯の根っこが上顎洞(副鼻腔)に飛び出して起こる歯性上顎洞炎なんてのもあります。
それが私たちの体にどのような影響を与えるのか、説明にはいつものこの図を用います。
ここでは病巣感染症=病巣疾患として扱っています。
掌蹠膿疱症は慢性扁桃炎でも起こるのですが、扁桃の場合は特定の感染菌が証明されてないことから「病巣感染症」という呼び方はふさわしくなく、「病巣疾患」「病巣関連疾患」と呼びます。ちなみにこれがNPO法人日本病巣疾患研究会の名前の由来です(皆さま、寄付よろしくお願いします!)。
どこかに限局的な原病巣があり、それらの慢性炎症が遠隔の諸臓器に二次性の器質的、機能的障害を起こす状態が病巣疾患(病巣感染)の定義ですね。
これに掌蹠膿疱症も含まれるのですが、その他の皮膚病変としてアトピー性皮膚炎、多形滲出性紅斑、尋常性乾癬、結節性紅斑、慢性じんま疹、IgA血管炎、色素性紫斑、ベーチェット病、痒疹なども疾患として挙げられます。
ですから、これらの疾患は皮膚だけを診ていては解決できない場合があるのです。
実は原病巣として、口腔内の慢性炎症は大きな役割を果たしているんです。これが歯性病巣感染です。
さて、今回の東京歯科大皮膚科の論文は、金属アレルギーテスト(パッチテスト)で陽性(アレルギー反応あり)であっても金属除去は急がずに、咽頭扁桃、口腔の原病巣治療を優先すべきだという趣旨です。
金属除去は高額な治療になることもあり(時には100万円を超えることも)、さらにそれほど急いでしなくても良いとなれば、治療としての優先順位はかなり低くなります(もちろん歯科金属で起こる病変もありますから、その際は金属除去をしなければなりません)。
ネットでガルバニック(ガルバニー)電流を除去するためにも金属除去を、なんてセリフを見つけてもそんなに心配しないで下さいね。まず病巣検索を優先して下さい。
この歯性病巣感染については、みらいクリニックサイトでも紹介しています。
文中では、根尖の病巣を治療して手の湿疹が改善した症例を紹介しました(札幌市西区森下歯科提供)。この症例でも金属除去は行っておりません。
論文の主旨は
さてこの論文の主旨を紹介しましょう。85の症例報告を調査した結果を並べてみます。
85例とはけっして大規模な数字では無いですが、それでも興味深い結果が見えてきますね。
扁桃摘出術は
まず掌蹠膿疱症に対する扁桃摘出術の治療成績を見ます。
扁桃摘出術は、掌蹠膿疱症治療としてはその有用性は確立しています。
報告によっても数値に違いがありますが、大体70~90%の確立で治癒します。
NPO法人日本病巣疾患研究会の堀田修理事長は、常々、上咽頭は司令塔、扁桃が実行部隊と言っています。
実行部隊が壊滅されると遠隔臓器の被害が無くなるわけですね。
今回の調査では、扁桃摘出術は6例と少数ながら100%の改善を認めました。
これはスゴイ!
ただし慢性扁桃炎がある場合ですから、慢性扁桃炎がなければ扁桃を摘出しても効果がないことになります。
ですから、報告によってその治療成績にばらつきがあるんですね。
ただ残念なのは扁桃摘出術を耳鼻咽喉科にお願いしても「適応で無い」と断られることが多いことです。
そこがちょっと問題です・・・
歯性病巣感染治療は
次に歯性病巣感染の掌蹠膿疱症に対する治療効果です。
歯性病巣感染70例を調べてみると、改善が63%(44例)でした。
これもなかなかの数字です。
もし掌蹠膿疱症を治療する医師が「歯性病巣感染」について知らなければ、これらの患者さんは延々と治らないということになります。
口腔内慢性炎症を改善するというのは、全身にとってとても大切だという証拠です。
そして往々にして歯性病巣感染の場合原病巣は「症状がない」。
歯の根っこの小さな炎症が、大きな悪さをすることがあるんですが、そのことが分かっている歯科医師に治療をしてもらわないと
「まぁ症状がないからそのまま様子を見ましょう」ということになります。
この場合の症状は”局所症状”であって、全身症状ではないのです。全身症状との繋がりを考えて治療することが大切ですね。
ちょっと歯性病巣感染から話題がそれますが、GutzeitとParadeの病巣感染の定義によると
「身体のどこかに限局した慢性炎症があり、それ自体はほとんど無症状か、わずかな症状を呈するに過ぎないが、遠隔の諸臓器に、反応性の器質的および機能的な二次疾患を起こす病像」となります。
ほとんど無症状か、わずかな症状を呈するに過ぎない
とあります。このことを今一度肝に銘じる必要があります。
歯性病巣感染の場合も症状がないことがしばしばなんです。
さて、歯性病巣感染治療の治療成績はこちら。63%が改善。これもなかなかのものです。
いつも提示するこのイラスト。
歯の根っこや歯肉組織の「慢性炎症」が体に大きな影響をおよぼすことがあります。
小さな炎症が、持続的に、慢性に、四六時中続くことが体にとって大きなストレスとなります。
歯科金属除去は
最後は歯科金属除去の掌蹠膿疱症への治療成績です。
9例のケースで改善が33%(3例)でした。
思ったより多かったですか?少なかったですか?
私は、「思ったより多かった」という印象です。
掌蹠膿疱症に対して歯科金属除去をすると1/3の人には効果があると言うことです。ただ9例という少数なのでこれから数を増やしていかないといけませんね。
これから分かることは、掌蹠膿疱症イコール金属除去ではないということ。みらいクリニックを受診する方でも金属除去に至るケースは1割程度でしょうか。
それくらい少ないです。すぐに金属を外す必要はありません。
それよりも安価で治療成績の良い治療方法があります。これはパッチテストで陽性であってもです。
上咽頭炎治療や扁摘、歯性病巣感染治療を行ってもなお症状が続くようであれば歯科金属除去をするという順番でも充分だと思われます。
みらいクリニックはその順番で治療方針を立てています。
注意してほしいのは、けっして金属除去が意味ないと言っているわけじゃ無く、安易な診断をしてすぐに金属除去というコースがだめだという意味です。
病巣感染全体では
さて、慢性扁桃炎、歯性病巣感染をまとめて病巣感染(病巣疾患)とするとどうなるかを見てみます。
全76例中、66%が改善と言うことになります。
歯科金属除去の改善率を見ても「まずは病巣検索が優先される」ということがわかる結果ですね。
慢性上咽頭炎の関与はどうなっているだろう
さて、上記論文には出てこなかった慢性上咽頭炎ですが、この慢性上咽頭炎の関与はどうなっているのでしょうか。
この写真は掌蹠膿疱症で受診してきた患者さんのEAT(上咽頭擦過治療)後の出血の様子です。
ひどい炎症があることが分かります(炎症が無いと出血しない)。
この慢性上咽頭炎(免疫異常の司令塔)がどのような影響をおよぼしているのか、そしてそれを治療するとどうなるのかは第二弾でお知らせします。
この本もオススメです(専門家向け)。
以下の記事も参考になさって下さい
SAPHO症候群:それぞれの症状の頭文字をとって名付けられた。滑膜炎Synovitis、痤瘡Acne、膿疱症Pustulosis、骨過形成Hyperostosis、骨炎症候群Osteitis、当初最初のSはSyndromeのSだった。鎖骨、肋骨の痛みやその他の多発関節の痛みや腫れ、皮膚病変が見られる。扁桃摘出術がとても効果的なことがおおい。胸肋鎖骨過形成症(SCCH)も同じ概念に含まれる。
慢性上咽頭炎の関与も強く疑われている(もとの部分に戻る)
執筆・監修 内科医 今井一彰プロフィール
みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
1995年 山口大学医学部卒業 救急医学講座入局
2006年 みらいクリニック開業
加圧トレーニングスペシャルインストラクター
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